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第161話
「···う、ん。ただいま!」
途端、陽和の暗かった顔は笑顔になって部屋に荷物を置いて「今日ね、すごく忙しかったんだ!」とソファーに座る。
「へ、へぇ」
「琴音くん来てたんだね、久しぶりだったのに挨拶もちゃんと出来なかったなぁ。ねえ、また近いうちに会いに行こう?」
「そうだな」
何事もなかったかのような陽和の様子に戸惑いを隠せない。
「なあ」
「ねえ!!あのさ!さっき命さんに会ったの!今度またユキくんと遊んできてもいい?」
「ああ、うん」
無理矢理にでも俺にさっきの話をさせたくないようで、その後も俺が話をしようとする度、言葉を被せてきた。
「陽和」
「そういえばさ!」
「陽和!!」
「···な、に」
我慢出来なくて強めに名前を呼んだ。ビクッと体を震わせて俺を振り返る陽和は表現しにくい表情で俺を見る。
「何で、何も言わないんだよ」
「···それは、さっき、琴音くんと話してたことについて···?」
「ああ。聞いてたんだろ。俺が···」
「言わないで」
「···············」
「折角、仕事だから仕方ないって、思ってるのに···また言われたら我慢出来ないよ···っ!」
勢いよく立ち上がって俺を鋭く睨みつけた。
仕事だからと言った陽和だけれど、俺がした全てのことを、そうやって我慢させるのは違うと思う。
「悪かった、本当に。」
「やめてよ、俺···っ」
「お前じゃないやつを抱いた。けど、そうしないとこれから先、そいつが仕事に協力はしてくれなくなる。そいつとの関係を切ることは危険すぎたんだ。そいつが組の大切な情報を全部持っているから」
「やめてってば!!聞きたくないよ!!」
「···話をしなきゃどうにもできないだろ。俺が悪いのはわかってる、だから、どうやってでも償うから、話を聞いてくれ」
「···ハルは、ひどいよ」
陽和の声が一気に冷たくなった。
わかってる、それだけのことをしたんだ。
「全部、自分一人で解決するんだもん。俺はね、少しくらいハルに相談してほしかった。」
「お前に組のことを何でもかんでも相談できねえよ」
「何でハルが怒ってるの」
「怒ってるんじゃない」
陽和が俺の近くに勢いよくやってきたと思えば拳を振りかざして俺の肩に振り下ろした。それが何度も繰り返されて、その内にその力は弱まり、代わりに涙が降ってくる。
「俺、だって···もっと、怒りたいよっ」
「···············」
「でも、仕事なんだもんっ!!けじめって、ハルが言ったんじゃんか!!」
「···そうだな」
「じゃあもう、どうしたらいいの。」
陽和が何も言えなかったのはそうやって俺が言っていたから。どこまでも申し訳なく思うし、辛い思いをさせていると思う。
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