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第167話

「···命さんは、ユキくんに甘えられるのって、純粋に嬉しいって思いますか?」 「そりゃあ···思いますけど」 「うざいとか、そんなの、絶対思わない?」 「···やっぱり陽和さん、我慢しすぎですよ。そんなこと聞くなんて、余程不安なんでしょう?」 「え···?」 「昨日、若に電話した内容は陽和さんに我慢させすぎだって言ったんです。上司だからそんなに強くは言えないし、若もいつも仕事で頑張ってるのはわかるんですけど···」 ユキくんはまた眠り出したようで、命さんの肩に頬を付けて目を閉じている。 「俺は仕事だからってユキに我慢させたくはないし···。今まで何かと辛い思いをさせてきたから」 「辛い思い?」 「···俺、1回、組の抗争で打たれて、記憶無くしたんです。その時、ユキはまだ子供で、なのに無くした記憶がユキの事だけ全部」 「そんな···」 「その時もね、ユキにたくさん我慢させました。本来ならそうするべきではないのに、記憶を無くした俺と一緒に暮らして、無意識に傷付けたりね。その後は全部ユキのことも思い出したから今があるけど、もしそうならなかったら···とか、その時は何も考えていなかったから、周りの人達にも凄い迷惑かけて」 眠るユキくんの頬を愛しそうに撫でながら、小さく笑う。 「でも、全部許してくれたんですよ。ユキも、その人達も」 「············」 「その人達の中には若だっています。若は赤石が死のうとした時も必死で助けてやろうとしてました」 「赤石さんが···!?」 「あいつも辛い時期があったんですよ。でもね、結局人って周りに支えられて生きているんです。どれだけ迷惑をかけたとしても、逆の立場になった時、その人を助けてあげるなら、そんなのどうでもいい」 「············」 「俺は若に散々迷惑を掛けてきました。だから、今度は俺が返す番です。陽和さん。陽和さんは我慢をせずに何でも若に声に出して伝えた方がいい。昨日、ユキと陽和さんが話してる内容を聞いてしまったんですけど、仕事でも浮気は許されることじゃないって、怒ってやればいい」 命さんの言葉は、何でだろう?素直にそのまま心に入ってくる。 そしてそれを受け入れて、解れた心が俺に涙を流させる。 「でも、その代わり、若が落ち込んでたり、疲れていたりしたら、陽和さんが全部聞いてあげるんです。あの人は俺達の前では弱い自分を見せませんからね。気付けるのは一番近くにいる陽和さんですよ」 命さんの言葉に気付かされて、俺は何度も頷いた。早く帰らなきゃ、早く、ハルに伝えなきゃ。 「きょ、今日、ハルと、ちゃんと話してきます」 「はい」 「···それで、また何かあったら、話聞いてください」 「勿論。まあ、うまいアドバイスができるかはわからないですけどね」 ユキくんがここまで命さんにべったりで夢中な意味がわかった気がする。だって今の俺も命さんにハグしたい気分だもん。 周りの人に沢山迷惑をかけて、それでも許してくれたと言っていた命さんだけれど、きっと、周りの人は命さんの行動を迷惑だなんて思っていない。それは命さんの本当はすごく優しい人柄のおかげなんだと思った。

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