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第168話
朝なかなか起きることが出来ないらしい鳥居さんを起こした命さんは「仕事行くぞ」とスーツを着て鳥居さんに言った。
「ひよくん!何かあったら電話してね!俺、すぐ行くからね!」
「ありがとう。話も聞いてくれて、すごく楽になったよ」
「よかったぁ。またお話しようね!」
鳥居さんの車に乗って浅羽組に向かう。
命さんは自分の車で行くらしい。
助手席でハルになんて言おうかなぁって考えながら窓の外を見る。
「陽和くん!辛くなったら、俺のところ来ていいからね」
「はい。あの、鳥居さん、ありがとうございました。」
「いいのいいの、気にしないで」
浅羽組について、車から降りる。
背中をポンポンと軽く叩いてきた鳥居さんに勇気付けられてハルの部屋に向かった。
一歩一歩近づく度に心臓がうるさくなる。
遂に部屋の前について、ドアに手をかける。
途端、中からドアが開いて驚いて固まってしまった。
「っ!あ、お、お前、いたんだ」
「今、帰ってきた、の」
ハルが驚いた様子でそこに立っている。
俺もこの状況に動揺して何も話せない。
「中、入れば」
「···う、ん」
とりあえず中に入る俺と、用事があるのか外に出ていくハル。でも、待って、どうしよう。今を逃したらいけない気がする。
「──っ、ハル!!」
「何」
急いでハルを追いかけて腕を掴んだ。
びっくりして咄嗟に腕を振り払おうとしたハルに少し悲しくなるけど、仕方ない。
────いや、仕方ないじゃない。
「嫌だ」
「···何が」
「仕事だからって、ハルが俺じゃない誰かに触るのも、ハルと離れるのも、今みたいに、されるのも!!」
「·············」
「俺、ずっと我慢しなきゃって、思ってたけど···違うってわかったの···」
ハルは何も言わずに俺の手をやんわりと離させた。
もしかして、気持ちが伝わらなかったかな。だんだんと悲しくなってくる。
「昨日、さ」
「え···あ、うん」
ハルは落ち着いた様子で話し出す。
「昨日、命に怒られた」
「あ···」
「陽和が自分から、何でも我慢しなきゃって、思わせるようにするなって」
「···············」
「好きな奴に辛い思いをさせるなって」
命さんがハルに何て言ったのかは知らない。
でも、きっと、さっき俺に掛けてくれた言葉と同じことを伝えたんだと思う。
「わかってるんだよ。だからそれをもうやめようと思って、お前と離れようとしたんだ」
「···でも、俺は···そっちの方が辛いよ」
「ああ。俺の自己満足なだけだ。もう、何をどうしたらいいのかも、わかった気がする」
ハルの温かい手が俺の頬に触れる。
いつの間にか泣いていたみたいで、頬に伝う涙を拭ってくれた。
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