169 / 211

第169話 晴臣side

親父の部屋でゴロゴロしていたら命から電話がかかってきた。親父の部屋の奥にある母さんがいる部屋に入って電話に出た。 「はい」 「お疲れ様です。黒沼です」 「ああ。どうした」 「今、家に陽和さんが来てるんですけど、その事でちょっと言いたいことがあって」 陽和が命の家に? 部屋で寝ていたのに、いつの間にか外に出ていたみたいだ。 「あの、差し出がましいことだってわかってます。でも、このままじゃ陽和さんが可哀想だから、言わせてもらいます」 「···ああ」 「あんた、何やってるんですか。仕事が大変だってことわかりますけど、それを理由に陽和さんに辛い思いさせていいわけが無いでしょう」 「···············」 「あんたが毎日色んなものと戦ってるのは知ってる。俺達にはしんどそうな顔も一切見せないようにしてるし、あんたのその努力はきっと浅羽にいる奴なら誰だって認める。···でも、努力してるのは陽和さんだってそうだ」 命の声の色がいつもより何倍も厳しい。 俺の自己満足に、何人もの人に迷惑を掛けているのだろう。 「あの人も、あんたと並んでいても遜色ないようにって、いつも努力してるんだよ。」 「···命」 「陽和さんをこれ以上我慢させるな。あの人のことが大切だと思うなら、最後まで守れ。」 「そう、だよな。悪い」 「···それは俺じゃなくて陽和さんに伝えてください。」 命は最後に「あの、本当、すみませんでした」と逆に謝ってきて、変なやつと少し笑ってしまう。 「何で謝るんだよ。ちゃんと、教えてくれてありがとな」 「···い、いえ、あの、はい。···じゃあ、失礼します」 通話が切れて、溜息を吐くと、母さんが俺を見てニコニコと笑っていた。 「ちゃんとありがとうって言えるのはいいわね。謝るのも大切だけれど、お礼を言うのはもっと大切だもの」 「···陽和に伝えないと」 「そうね。でも今日はゆっくり休みなさい」 母さんも、俺の頭をまるで小さい子供をあやすかのように撫でてきて、ちょっとだけ···いや、結構、恥ずかしかった。

ともだちにシェアしよう!