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第169話 晴臣side
親父の部屋でゴロゴロしていたら命から電話がかかってきた。親父の部屋の奥にある母さんがいる部屋に入って電話に出た。
「はい」
「お疲れ様です。黒沼です」
「ああ。どうした」
「今、家に陽和さんが来てるんですけど、その事でちょっと言いたいことがあって」
陽和が命の家に?
部屋で寝ていたのに、いつの間にか外に出ていたみたいだ。
「あの、差し出がましいことだってわかってます。でも、このままじゃ陽和さんが可哀想だから、言わせてもらいます」
「···ああ」
「あんた、何やってるんですか。仕事が大変だってことわかりますけど、それを理由に陽和さんに辛い思いさせていいわけが無いでしょう」
「···············」
「あんたが毎日色んなものと戦ってるのは知ってる。俺達にはしんどそうな顔も一切見せないようにしてるし、あんたのその努力はきっと浅羽にいる奴なら誰だって認める。···でも、努力してるのは陽和さんだってそうだ」
命の声の色がいつもより何倍も厳しい。
俺の自己満足に、何人もの人に迷惑を掛けているのだろう。
「あの人も、あんたと並んでいても遜色ないようにって、いつも努力してるんだよ。」
「···命」
「陽和さんをこれ以上我慢させるな。あの人のことが大切だと思うなら、最後まで守れ。」
「そう、だよな。悪い」
「···それは俺じゃなくて陽和さんに伝えてください。」
命は最後に「あの、本当、すみませんでした」と逆に謝ってきて、変なやつと少し笑ってしまう。
「何で謝るんだよ。ちゃんと、教えてくれてありがとな」
「···い、いえ、あの、はい。···じゃあ、失礼します」
通話が切れて、溜息を吐くと、母さんが俺を見てニコニコと笑っていた。
「ちゃんとありがとうって言えるのはいいわね。謝るのも大切だけれど、お礼を言うのはもっと大切だもの」
「···陽和に伝えないと」
「そうね。でも今日はゆっくり休みなさい」
母さんも、俺の頭をまるで小さい子供をあやすかのように撫でてきて、ちょっとだけ···いや、結構、恥ずかしかった。
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