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第180話
母さんは酷い。
「貴方に兄弟はいないわよ」
そんな言葉をケラケラと笑いながら言う。
違うって叫びたかったけど、もう、きっと、意味が無い。
脱力しきった俺から携帯を取ったハル。
そのまま携帯を耳に当てて「もしもし、浅羽ですけど」と話をしている。
ハルの事はとっくの前に母さんに伝えていた。
母さんは同性愛には偏見を持っていないらしくて、俺達のことを理解してくれている。
そんな母さんが父さんを説得してくれたようで、今は父さんも俺達には偏見を持っていない。
そういう所は有難いと思う。
けれど、それとこれとは全く違う。
「息子さん、陽和以外にももう一人居ますよ」
ハルは抑揚のない声でそう言った。
その顔は怖い仕事をした後みたいに冷たい。
「だから、息子さん。陽和の上にいるでしょ、もう1人」
チラリと俺を見たかと思うと少し離れたソファーに腰を下ろす。
「存在も忘れられてるなんて、可哀想だなぁ。近い内そいつがあんたらを殺しに来てもおかしくねえってのに」
ハルが母さんにそんな口調で話すのは初めてだ。
多分、すごく怒ってる。部屋の空気がピリピリとしている。
「別に、忘れたなら忘れたでいい。でも、そのお返しはいつ来るかもわかんねえぞ。そのまま怯えて暮らしてろ。」
電話を切ったハルは煙草に火をつけてふぅと宙に煙を吐く。
「···陽和、悪い。お前の母親なのに」
「い、いいの、大丈夫。」
「はぁ···。まあ、これでわかったろ。」
一度頷くとハルは寂しそうな顔をして「人間ってさぁ」と話をしだす。
「都合のいい事だけしか覚えてない。いや···都合いい様に記憶を塗り替える」
「···うん」
「俺もそうだし、それを非難するわけじゃねえけど、流石に···流石にこれは許せなかった。」
「うん。俺も、初めて母親に落胆した···」
「───···さーてと。明日の準備するか!」
火を消したハルはグッと伸びをして「腹減ったな···」と呟いていた。
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