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第181話
翌日、緊張する俺とあくびを零すハルと、運転をしてくれる早河さんとで指定された場所についた。
「早河はここで待ってろ。何かあったら連絡する」
「はい。お気をつけて」
ハルに連れられて来た場所は古い倉庫みたいな場所。
その建物の前には「お疲れ様です」と言ってハルに頭を下げる人が1人。
「助かったよ」
「いえ。浅羽さんにはいつもお世話になってますから」
その人は俺を見てにこりと笑う。
「もう中に居ます。」
「ああ。ありがとう」
倉庫に入ると1人の男がドラム缶にもたれ掛かりながら煙草を吸って立っていた。
その男は俺達を視界に映すと煙草を地面に捨て、火を踏み消す。
「あんたが、浅羽晴臣?」
「ああ。」
「···で、その後ろのが、陽和?」
「は、い」
その人の目はすごく冷たい。
フラフラとこっちに歩いてきたかと思えばにこりと優しく笑う。
「陽和、久しぶり」
「···お、兄ちゃん···」
「そう。兄ちゃんだよ。元気だったか?」
「う、ん」
お兄ちゃんが「会えて嬉しいよ」と言う。
「お前が浅羽の若頭を使ってまで、俺に会おうとしてくれたこと、嬉しかったよ」
「···あの、お兄ちゃん、俺っ」
「なあ、お前には何も怒ってねえし、恨んでもない。だってお前は小さかったんだ、小さい子供に、あの虐待から俺を助けられる訳が無い。」
「···お兄ちゃん、は···どうする、つもりなの···?」
「俺?俺はこれから···そうだなぁ、出来ることなら、あのクソみたいな奴らを殺してやりたい」
お兄ちゃんのニヒルな笑みが背中をゾッとさせる。
本気だ。
その目は本気で母さん達を殺そうとしてる。
「なあ、お前」
突然、黙っていたハルが声を出した。
「お前が陽和の親を殺すとか、そうじゃないとか、それはどうでもいい。でも陽和の恋人として言いたいことがある」
「···何だ」
「俺は陽和が大切だから、陽和の悲しむような事はしたくない。そしてもし、陽和を悲しませようとしたやつが居るのなら、どんな手を使ってでも俺がそいつを殺してやる。···お前が、陽和の親を殺したことで、陽和を悲しませたなら、俺はお前を殺す」
ハルの"殺す"って言う言葉は怖い。
それが嘘じゃないって誰にだってわかると思う。
実際、お兄ちゃんの顔が引き攣っているから。
「陽和の親を許してやれなんて言うつもりはない。俺だってあいつらがあんたにしたことは許せないと思う。でも、陽和を傷つけることは、それ以上に許せないことだ。」
「···さすが、浅羽の若頭さんは言うことが違うな」
「あんたか陽和を恨んでないなら、陽和を傷付けるな」
「···わかったわかった。要は何もするなってことだろ。でも、じゃあ···俺のこの怒りはどこにやればいい?」
お兄ちゃんの弱々しい声がハルに縋るように聞こえた。目の前で見ている光景は全くそんなことはないのに。
「俺は、今までその為だけに生きてたんだよ。そこに急に弟が現れたら、気持ちは揺らぐ。その上にお前には何もするなって言われてんだぜ?これから、どうやって生きていけばいいんだよ」
悲痛なその声に涙が出そうになったけれど、俺が泣くなんておかしい。
「───···あんた、陽和のこと、好きか?」
「は···?」
「だから、陽和のこと、好きか?」
「そりゃあ···俺の弟だぞ、当たり前だろ」
「ならうちに来ないか?」
「何言ってんだ、お前」
ハルの言葉に俺もお兄ちゃんも間抜けな顔になった。
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