「何も知らねえくせにっ！！俺のことを知ったように言うんじゃねえッ！！」 「何も知らないからこそ言えることがあるんだよ」 ハルには何か考えがあるのかな。 また、殴られたハルを助けることも守ることもせずにただ見てるだけ。きっとハルの言っている言葉は本来なら俺がお兄ちゃんに伝えないといけないことなのに。 「お、兄ちゃん」 「俺だけが、こうやって、黒くなってんだろ···？あいつらも今は俺のことも忘れて笑顔で生きてやがるんだろ？···あいつらに、後悔させてやりたいんだよ···俺は、お前らに勝ったんだって···」 「お兄ちゃんっ！！」 お兄ちゃんが俺を見た。その目は赤く充血している。 そっと近づいて、ハルの胸倉から手を離させ、震える手でお兄ちゃんを抱きしめる。 「ね、ねえ、俺、知ってるよ」 「···な、にを」 「お兄ちゃんが、いつか俺も母さん達に虐待されるんじゃないかって心配してくれてたの、知ってるよ」 「··················」 「ちょっとでも、そうなりそうになったとき、わざとお兄ちゃんが母さん達を怒らせて、俺から意識をそらしたり、全部、知ってる」 「ひ、より···お前···」 「俺は、お兄ちゃんの味方だから、お兄ちゃんが母さん達を傷つけたとしても、知らないふりをするよ。でも、殺しちゃうのは、だめだよ」 だって、そんなことしたらもったいない。 「そんなの、お兄ちゃんが犯罪者になっちゃう」 本当はこんなに優しいお兄ちゃんを、わざわざ汚すようなこと、して欲しくない。 「ねえ、我慢出来なくなったら、俺がいつでも止めてあげる。」 「やっぱり、お前は···優しいな」 「···それは、お兄ちゃんの方で───」 「優しすぎて、なんか、もう、全部バカバカしく思えてきたよ」 お兄ちゃんが俺を離させる。 頭をポンと撫でられた。 「でかくなったな、本当に」 「お兄ちゃん···？」 「お前が、悲しむなら、殺すのはやめる。」 「っ、う、ん···うん！」 気持ちが届いたのが嬉しくて、自然と涙がポロボロと溢れた。