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第185話

後、まだ一つ残っていることがある。 それは裕也のこと。 あの日、事件があった日から裕也は学校には来ていない。 「ハル、学校行ってくる」 「ああ。気をつけてな」 お兄ちゃんと会った日から少し経って、学校に行く。 今日こそは裕也に来て欲しい。ちゃんと話をしたいから。 学校について、そんな願い事をしながら講義室まで向かっていると「おい」と声をかけられた。 「え···あ、龍樹くん」 「裕也、居るぞ」 「嘘!本当!?」 「さっき第一講義室に居た。一応挨拶したけど、空元気で返された」 「···今もいるかな」 「いるんじゃねえか?本当、ついさっきだしな」 「行ってくる!!」 次の講義はもういいや。 急いで第一講義室に向かう。講義室のドアを開けると中にいた人物が驚いたようにこっちを見た。 「裕也!!」 「あ、ひ、ひよこじゃねえか!久しぶりだなあ!」 「久しぶり!ねえ!話がある!」 「俺はない!じゃあ俺ラウンジ行くから!」 「あの日、ハルを刺したのはお前だってわかってる!」 何も考えずにそう言えば裕也は立ち止まり顔色を変えた。 それからニヒルな笑みを浮かべて俺に近づいてくる。 「死ななかったのは、残念だったよ」 「···何で、あんなことしたの」 「あ?お前、あいつから話聞いてねえのか?どうせあいつは理由も全部知ってるんだろ?だから、俺のところに仕返しにやってこない」 「どういうこと···?」 「俺の親父は、浅羽組の起こした抗争に巻き込まれて死んだんだ」 淡々と何の抑揚もなくそう言った裕也の顔は表現し難いくらい悲しみに満ちている。 「親父がいれば、俺は今みたいな···こんなに苦しい生活をしなくてよかったかもしれない。弟達にも辛い思いさせなくて済んでいたかもしれない」 「···ねえ、裕也」 「苦しくていつも逃げたくて、けど、俺がいなくなったら今度こそ弟達は追い詰められる。」 「···················」 「俺は、ずっと、このまま逃げられないんだよ」 ふんわりと笑った裕也に俺までが悲しくなる。 なんでそんな風に笑うんだよ。 「ハルが、裕也にちゃんと話をしたいって言ってた。」 「話?話をすれば金でもくれんのかよ。」 「そ、それは···」 「話をする時間があるなら働く。」 これ以上俺が裕也と話しても無駄だとわかって、講義室を出てハルに電話をかけた。 「裕也、話す時間があるなら働くって。お金が、無いからって」 「金をやれば話をするのか?」 「わかんないよ」 「なら200やる。そう伝えろ」 「···は、い」 電話を繋げたまま、講義室に入ると「まだ何かあんのかよ」と苛立ったように裕也に言われる。 「ハルが200やるから、話をしたいって」 「それ、200万だろうな」 その祐也の質問にハルが「当たり前だろ」と電話越しにいう。 「当たり前だろ、って」 「わかった。じゃあ行ってやる」 話し合いをするための話し合いでこんなのなら、裕也がハルと会ったら、どうなるんだろうって不安に襲われながら、今度こそ講義室から離れた。

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