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第188話
誰かの命を奪うことはどんな理由があっても等しく悪い事だ。
「俺、ずっと裕也のこと適当に扱ってたけど、もっと話を聞いてあげたり、もっと知ろうとすればよかった」
「俺のことを知って、それでどうするつもりだよ。お前が俺のこの気持ちをどうにかしてくれんのか?」
「···俺のお兄ちゃんは、ずっと虐待されてたんだ。俺の母さん達から。」
話を変えた俺を裕也は訝しげに見る。
「この間、やっと会えた。お兄ちゃんはずっと母さん達を殺すつもりだったって。だから今は、ハルと同じ仕事をしてる。力をたくさんつけて、復讐をしようとしてたの。でも、やめてくれた。虐待をするような人たちの為に犯罪者になって欲しくないって、伝えたんだ」
「それとこれと、なんの関係があるんだよ」
「俺は、この浅羽組を卑しめるわけじゃないけど、裕也が本当にハル達を恨んでいるなら、自分の手を汚す方法なんてとるべきじゃないと思う」
「···でも、他にどうしろって?警察に行けばいいのか?ここら一帯を纏めてる浅羽組に親が殺されたって言ったところで、どうにもならねえよ。···お前らはどうせ警察とも繋がってるんだろ」
この組のそういった事は俺は全く知らないけれど、きっとそうなんだと思う。
「───お前、何をそんなに怯えてんだ?」
ずっと話を聞いていたハルが口を開いた。
「どの立場からこんなこと言ってんだって言われると思うんだけどな、お前の話を聞いてちゃ、どうも怯えてるようにしか思えない。自分の内側を暴かれるのが嫌なのか?だからさっきから逃げてばっかりいるのか?」
「に、げてなんか···」
「逃げてるよ。どうするつもりだ、とか、なんの関係が、とか。俺たちに説明させるばかりで、お前の気持ちは一切伝わってこない。お前がどうしたいかなんだよ、お前がしたいようにすればいい、ここはただの話し合いの場所じゃねえ、話し合いっていう取引だ」
ハルの言葉は力強くて、裕也も何も言い返せない。
俺が裕也の立場でも多分そう。
「どうしたい?金が必要か?ならいくら欲しい。俺達が警察に行って"こいつの親を殺しました"って言えばいいか?」
「·················」
「まあでも、後者ならお前にはここに用意してある200しか入らない。前者ならお前が言う額を用意してやれるけどな。」
「···全部、金で解決かよ」
「でも。今のお前には"親父が死んで寂しい"より、"金がなくて苦しい"の方が大きいだろ?」
「さすが、ヤクザだな」
裕也が深く溜息を吐いた。
俯いていた顔を上げると表情がさっきよりスッキリとしている。
「わかった。じゃあ、金をくれ」
「ああ。いくら欲しい」
「···少し、考えさせてくんねえか」
「いくらでも待ってやる。···とりあえず、今日ここに来てくれてありがとう」
そう言ってハルは封筒に入った札束を裕也に渡した。
恐る恐るそれを受け取った裕也が「ほんとに、いいのか」と震える声で言う。
「お前、すげぇ真面目なんだな。」
「いや、だ、って···200万って···」
「じゃあ要らねえのか?」
「いる」
「なんだよ」
クスクスと笑ったハルと、大事そうにバッグにそれを入れた裕也に、俺は内心ホッとした。
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