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第205話

お昼になって龍樹くんに指定された場所で一人、待っていた。 何の話だろうって少し不安に思う俺とは違い、あくびをしながら現れた龍樹くんに溜息を吐く。 「ねえ、話ってここの学食じゃ出来ないような話?」 「お前の恋人のことがバレていいならいいけど?」 俺が男と付き合っているのはバレてもいい。 けれどハルの名前を外で出し、それを知られてはいけない人に知られたとして、そうしてハルに迷惑をかけることは嫌だ。 「···どこ行くの?」 「俺のお気に入りの場所」 俺が拒否をするのがわかっていて行く場所を元々決めていたらしい。 「ハルに関係のあること?」 「ああ。」 龍樹くんについて行く間に色んなことを考えては見たけれど、今龍樹くんが直接的にハルに関わることって何かあるっけ? どれだけ考えてもやっぱり答えは見つからない。 「着いた」 「ここ?」 「そう。」 お店のドアを開けるとカラコロと心地のいい音がした。 中は落ち着いた雰囲気で、カウンターに立っていた男の人が龍樹くんを見て優しく笑う。 「いらっしゃいませ」 「こんにちは」 龍樹くんはそう返事をして奥にあったテーブル席に座った。 「ここ、知り合いの店」 「へえ。素敵だね」 「だろ。よくここに来るんだ。落ち着いてるし心地いい」 そう言ってメニューを俺の前に広げる。 美味しそうなランチメニューの中から一つ選んで、龍樹くんも同じものを頼んでいた。 「で?話って?」 「そんなに焦んなよ···」 「だって気になるんだもん、早く聞きたい」 そう言うと溜息を吐いた龍樹くんは真剣な目で俺を見てゆっくりと口を開く。 「俺、若にも言われて···浅羽に入ることにした」 「え!?」 驚く俺をよそに龍樹くんは話を続けだす。 「浅羽に居れば勉強にもなる。それに···浅羽の若頭を殺そうと思えばいつでも殺してやれる」 「···············」 「あれ、怒んねえの?」 「だって多分···ハルが本当にいけない事をした時しか、龍樹くんは手を出さないと思って」 例えば使っちゃいけない薬で商売したり、無意味に人を殺したり。 そういう人の道を外れたようなことをした時しかきっと、龍樹くんは動かない。 「浅羽の若頭にはもうそれを伝えたし、あとは一応お前にって思って。驚かせてやろうと思ったけど隠すのも面倒だ」 「···本当、龍樹くんに初めて会った時は人の良さそうな人だったのになぁ」 「そりゃあ人に近付くにはいい人を演じるのが一番だろ」 「今じゃ殺すとか面倒くさいとか···まあそっちの方が俺も気楽に話出来るからいいけどね」 話をしていると料理が運ばれてきて美味しそうで思わず「わぁー!」と声が出た。 「俺はお前のこともっとアホで何も考えてないような奴だと思ってたけどな」 「何で?」 「だってそんな感じだから」 そんな感じの意味がわからなくて言い返すことも出来ずに「いただきます」と言い料理を口に運ぶ。 「美味い!」 「だろ」 龍樹くんとも何かとあったけれど、いい友達になれるような気がして、浅羽組に来てくれることを嬉しく思った。

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