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第3話
(最近の若者はよく分からないな…)
小山が置いていった白いカードを手に持ち、誠はため息をついた。そのカードにボールペンで書いてあったのは「小山」と十一桁の番号。小山の携帯番号であることは明白なのだか……。
あれから藤川がすぐ戻ってきたので、このカードをポケットに入れた。カットが終わって会計を済ませて店を出るまで、小山の姿は見えなかった。
ただ、手には彼の携帯番号が残った。電話をかけろということなのだろうが、あんなことをして客に怒られるとか、訴えらるとか思わないのだろうかと頭を抱えたくなる。そもそもこっちが悩むことではないのだが。
こちらから電話をかける義理もない筈なのに、頭から離れない理由は、彼と目が合った時のあの瞳。
鋭い眼光に今も背中がぞくりとする。自分に触れられる前から強烈な印象を与えた彼。
繋がることが出来るこの誘惑に、誠は勝てそうもない。
モヤモヤしながら過ごしてしまった休日は、気づけは二十一時を超えていた。明日以降もこんな気持ちでいるのは御免だと、とうとうその携帯番号に発信した。五回ほど呼び出し音が流れ、小山が電話先に出た。
『もしもし』
電話先の低い声に、誠の喉がヒクついて言葉が出ない。小山は訝しむ様子だったが、やがて…
『…白河さん、ですか』
自分の名前を呼ばれて驚く。
「…そうです」
そう答えるのが精一杯で、何故か赤面してしまう。いい歳したサラリーマンが何してんだよ、と自分でも情けなくなる。
『ちょうど良かった。今帰宅中で』
「遅くまでお疲れ様」
『白河さんにそんな言葉かけてもらえるとは思いませんでした。今日のことを考えたら』
いきなり核心をついてきたので、白河の方が慌てる。
「き、聞きたかったんだけど何であんなこと…」
『…だって、触って欲しそうな顔してましたよ』
「へっ」
『シャンプー台で目があった時に。僕のこと気になってるんだろうなって。だから、触ってみようって』
「って、何でそこで触る?」
『取り敢えず、触れてみたいじゃないですか』
(…話が通じない)
白河は、一つため息をついた。それが聞こえたのか、小山が切り出す。
『ねえ白河さん。もっと、触れて欲しくない?僕はもっと触れたい』
その声に、自分の鼓動が早打ちしていくのに気がついた。昼間の感触を思い出したからだ。誠が答えずにいると、畳み掛けるように小山が言う。
『僕、**駅から電車に乗るんだけど、白河さんち近いでしょ』
ギョッとして誠は思わず携帯を落としそうになった。小山は恐らく顧客名簿から誠の住所を盗み見したのだろう。何故そこまでするのか、もう誠には理解できない。ただ、一つ言えるのは…
このまま、主導権握らせたままなんて、自分のプライドが許さないと。
「…いいよ。家、来なよ。望むところだ」
(アイツが来たら、主導権握ってやる。あんな訳の分からない奴に、やられっぱなしでいられるもんか)
急に態度が変わった誠に、小山はクスッと笑う。
『じゃあ、行くから。待ってて』
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