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第9話

「白河、髪が結構長くなったな」 襟足に触れられて、誠は驚き振り向いた。その先には同僚の松浦がいる。 昼休憩中、二人で定食屋でご飯を食べてる最中。松浦がそんなに長くなってるの初めて見たと言ってきた。 「なかなか散髪に行けれなくて」 「駅前の床屋なら早いし安いけど」 「俺は美容室派なの!」 さすがオシャレ営業マンだなあ、と松浦はからかうように誠を見る。 「だけどさ、あんまり長すぎるとまずいんじゃない?俺らと違って人と会うんだからさ」 正論を言われて、うぅと唸る誠。誠自身も、鏡を見るたびにそろそろ切らないとな、と思っているのだが… (あそこに行ったらアイツがいるしな…) 小山との一件があった後、誠は【Green】に行けなくなった。今までひと月に一回、長くても二か月に一回は通っていたが、今や三か月目だ。 襟足も伸びているし、髪型も毎朝、決まらなくなってきた。 行きにくいのであれば、他の美容室へ行けばいいのだが、担当の藤川に申し訳ない気持ちで他店へは行けずじまいだ。 あれから誠から小山に連絡することもなく、また小山から連絡も来ることがなかった。やはりあの日の気の迷いだったのだと誠は感じていた。 ただそれなのに【Green】に足が向かないのは、どこかで恐れているのかもしれない。また会えば流されてしまうのではないか。 そう思いながらも、同僚に指摘されるくらい身だしなみが出来ていないのは社会人として失格だ。 (何も俺が遠慮することじゃない、か…) 帰り道に、意を決して藤川の携帯へメールする。するとすぐ返事が来て、週末に予約が取れた。 *** 「白河さん!お久しぶりですね!」 週末、【Green】を訪ねると店に入るや否や、藤川が笑顔で出迎えてくれた。さっそく席に促されて座り、クロスをかけてもらう。藤川が髪の長さをチェックしていく。 「伸びたなあ、よく我慢しましたねぇ」 体調でも悪かったのですか?と藤川に聞かれ、忙しくてと誤魔化して誠は答えた。まさかおたくの新人といちゃついた挙句、逃げてましたなんて言えない。 店に入って今の間まで、銀髪は見えない。たまたま休みなのだろうか。 (…!俺は何を…) いつの間にか、小山を探していた自分に気がついて思わず頭を振る。顔を合わすのが嫌で三か月、ここに来なかったのに、来たらアイツを探すなんて…。 「じゃ、シャンプーしましょう」

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