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2.言い訳が多すぎる

 俺、こと長井智文(ともふみ)はM商事に勤める会社員である。  身長180cm、元テニスサークルでイケメンというほどではないが比較的整っている方だと言えるだろう。昔つけた筋肉を落とさない為に週二、三回ジムに通っている。就職して四年目になるが彼女はいない。というかこの先できるのかどうか定かではない。  それというのも、俺には人に言えない趣味がある。  それはアナルオナニー。略してアナニーだ。  俺がアナニーに目覚めたのは大学生になってから。たまたま借りて見たAVで女性に前立腺マッサージをされて喘いでいる男優を見たことから興味が沸いた。普通ならそれでやってみようという思考にならないかもしれないが、俺は元々二、三日に一回はお湯浣腸をして腸内の掃除をしていたのだ。  それというのも俺は元々胃腸が弱く子どもの頃は毎朝下していた。大人になった今ではその原因が乳糖不耐性だとわかっているが、それが判明するまでは毎朝とてもつらい思いをしていたのだ。下しても毎回しっかり出し切れていればよかったのだが、そんなに都合よくはいかない。便秘知らずではあるが俺は毎日腸の不調に悩まされていたわけである。(別にしゃれではない)高校生になって浣腸の存在を知った俺は試しに腸内をキレイにしてみようと使ってみることにした。そして中がすっきりする感覚に目覚めてしまったのである。それからお湯洗浄等を覚え、専用の器材なども買い二、三日に一回はおなかの中を洗浄するようになった。  というわけで俺のおなかの中はいつもキレイなのだ。ワセリンを指にまぶし、試しに人差し指を尻穴に入れてみたら電撃が走った。なんというか、どうともうまく言えない感覚に俺はすぐはまってしまった。  それからというものローションやらローターやらエネマグラやらを買い揃え、毎晩のようにアナニーをするようになった。  そうして尻穴を開く感覚やら、前立腺を刺激してイく感覚にはまってしまうと彼女がほしいとは思えなくなってしまった。とはいえおっぱいは好きだし、くびれた腰や柔らかそうなお尻、「かわいい~」という高い声も嫌いじゃない。そう、かわいいものとして女子を見ているのは好きなのだ。彼女としては今のところ必要ないだけで。  だから俺は自分がノンケだと思っていた。実際試しにゲイビデオを見てみたが思いっきり萎えた。気持ち悪いとさえ思えた。  なのに、今年度の新入社員である岡貴臣(たかおみ)が俺の部署に配属されてきた時、「コイツだ!」と俺の中の何かが叫んだ。  岡は平均的な身長で、どちらかといえば細身だった。俺と違い少し茶色がかったさらさらの髪と中性的に整った顔はいかにもな優男というかんじだった。女性っぽいわけではないが男性的ではない。そんな岡に俺は一目惚れしてしまったようである。そしてどういうわけか、俺はいつしか岡に自分の尻穴を犯してほしいとさえ思うようになっていた。  ヤツの気遣いはさりげなく、そして何故か俺に対して接触が多かった。手が触れたり身体が触れたりということを自然とするのだ。女性にしたらセクハラと言われる一歩手前までヤツは俺にかまってきた。仕事はできる方だと思う。後輩に懐かれて悪い気はしないので、俺はそれを無意識のうちに受け入れていた。  俺の会社では11月の頭頃に社員旅行がある。旅費は当然会社が出してくれ、有休扱いにはなる。強制ではないがそこでカップルが成立することも多いので参加者は多かった。 「長井先輩も参加されるんですか?」  岡に無邪気に聞かれ俺は少し考えた。 「どうするかな。去年も参加したから無理に参加する必要もないんだが。ああ、岡も強制じゃないから都合が悪ければ参加しなくていいぞ」 「ええ~、先輩行きましょうよ。旅費も会社負担なんですから」 「じゃあ行くか」  さりげなく手を掴まれたことに少し困惑しながら、かわいい後輩にそんなことを言われてしまっては行かないわけにはいかない。俺は顔が緩むのをどうにか抑えながら今年も社員旅行に参加することにしたのだった。  その時はまだ社員旅行で岡を襲うという頭はなかったのだが、その後岡が誰かに告白されている場面を見て焦った俺はふと思いついてしまったのである。  もし強力な睡眠薬みたいなのがあれば、知られずに襲えるんじゃね? と。  うん、まぁどう考えても犯罪だな。

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