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17.月曜日、会社にて

 日曜日、岡とはLINEで軽く会話をし、そして月曜日になった。 「おはようございます!」 「おはよう」  会社から二駅の場所に住んでいる岡は出勤が早い。笑顔で俺に挨拶する姿が眩しかった。同じ職場の人間とになったらとても仕事にならないのではないかと思っていたが、そんなことはなかった。  今は急ぎの仕事はないので普通に昼休憩が取れ、近くの蕎麦屋に二人で向かった。 「今週末は会えないんですよね? じゃあ明日は泊まりにきませんか?」 「明日? 明日は一応ジムに行くつもりなんだが……」 「先輩が通われてるジムってコーリングですよね。実は僕も行ってるんです。ジムに一緒に行ってそのまま……ってのはだめですか?」  上目遣いに見つめられて俺はつまった。股間のイチモツは凶悪なのにそんな表情は飼い主の認可を待つ飼い犬のようで……。 「あ、ああ。定時で帰れるならいいんじゃないか。水曜日の朝は会議だから……早く着けた方がいいしな」  内心どぎまぎしながら同意する。岡はぱぁっと花開くような笑顔を見せた。 「じゃあ僕、腕によりをかけて夕飯を用意しますね。期待してください!」 「うん。よろしくな」  なんかこれ、思いっきり恋人っぽい会話だよな。同じジムに通っていたなんて俺は全く知らなかった。全然意識してなかったから見られていたと思うと少し恥ずかしい。  昼休憩を終え仕事を再開する。いっぱい食べたわけではないのだが午後は眠くなる。だがやるべきことが終わらなければ薔薇色の明日はやってこない。俺は気合いを入れて書類を作成しはじめた。  仕事が一段落したので休憩スペースに移動する。自動販売機が何台か並んでいる狭い場所だが一応座る場所もある。給湯室も別にあるが、基本女子社員の城のようになっていてなかなか近づきづらい。  コーヒーでも飲むかとボタンを押したところで、 「長井君、旅行お疲れ様~」  後ろから桂の声がした。 「ああ、お疲れ」  コーヒーのカップを取り出し、キャップを取って一応はめる。どちらかといえば猫舌なのでキャップの小さい口から飲むのは苦手だ。デスクに持っていく際にキャップがあった方がいいからはめているだけだ。  振り返ると桂ともう二人女子社員がいた。一人は岡と同じく今年入ってきた新入社員だった。 「今日お昼”どんどん”にいましたよね?」 ”どんどん”とは会社近くの蕎麦屋である。岡の同期の子が声をかけてきた。名前、なんだったっけか? 「ああ、うん。いたよ」 「長井先輩、岡君と仲良いですよね」 「? まぁ、そうだね」  岡の同期の子の頬が少し赤くなっているように見えた。ただ化粧で頬を赤く見せるものがあったはずなので俺の気のせいかもしれない。 「あの……」  だがどうも嫌な予感がする。何せ今三人の女子社員に囲まれているのだ。逃げようにも逃げられない。俺は冷汗を流しながらどうにかしてこの空間から逃れようと考え始めた。 「長井先輩、ここにいたんですね」  救いの神が現れた!  嬉しそうな弾んだ声をかけてきたのは岡だった。岡もどうやら仕事が一段落したらしい。 「もー、先輩ってばどこにいるか言ってから休憩入ってくださいよ」 「俺はお前のお母さんかよ」 「うさぎは寂しいと死んじゃうんですよ」 「何言ってんだ」  お互い軽口を叩くことで空気を緩ませる効果があったらしい。 「あ、桂先輩、(あらた)先輩こんにちは」  さりげなく岡は同期の子を無視した。 「岡君も休憩? この子覚えてる?」  桂が岡の同期の子を前に出す。その子はわたわたと慌てるような仕草を見せた。こうして見ると小動物系でかわいい。  岡はその子を見て一瞬考えるような顔をした。 「ええと……佐藤さんだっけ?」 「は、はいっ!」  岡の同期の子は佐藤というらしい。佐藤は明るい顔になった。対する岡の顔は平静だ。 「えっと、何か用?」 「あ、いえ……その、社員旅行、行かれたんですよね?」 「行ってきたよ」 「…………」  そこから会話は続かなかった。岡は首を傾げた。そして俺を見やる。 「長井先輩、ちょっと仕事で聞きたいことがあるのでいいですか?」 「あ、ああ。じゃあ行くか。じゃ、先に行くわ」  桂たちに断って岡と共に踵を返す。佐藤がじっと岡を見つめているような気がしたが俺にできることは何もない。多分佐藤は岡が好きなのだろう。  企画部に戻り岡から書類を見せられる。営業部からのものだった。どうもおっちょこちょいがいるらしくたまに数字のミスがある。また営業部に文句を言わなければならないだろう。岡と共に課長に声をかけ、その後は定時まで集中した。  帰ったら明日の準備をしなければ。  上機嫌な俺は佐藤のことなどキレイさっぱり忘れてしまった。

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