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41.いちいち絡まれて面倒くさい
金曜日は予定通り残業になった。岡も珍しく仕事が残っているようで「夕飯何か買ってきましょうか」と周囲に声をかけている。
「コンビニ?」
「この辺の店ならどこでも行ってきますよ。さすがに牛丼とか言われると困りますけど」
「じゃあマッ○で。ビッグマッ○のセット頼むわ」
「女の子たちは遅くても八時には帰りなさい」
「はーい」
部長にそう言われ、女子社員はみないい返事をした。
岡の同期の女の子が後ろから軽く押されて岡の前でたたらを踏んだ。
「きゃっ」
「佐藤さん、大丈夫?」
「岡君、買出しは佐藤さんと一緒に行ってねー」
「わかりました」
女子社員も少し残るようだった。二人はそれほど時間をかけずに夕飯を買って戻ってきた。岡が持てるだけ持ち、女の子はどうしても持てなかった分というかんじで帰ってきたのが微笑ましい。女の子はとても恐縮していたが岡は当り前のように夕飯を各デスクに置いていった。
「ねぇ長井君。岡君たち、お似合いだと思わない?」
いつのまにか近くにきていた新 にこそっと言われた。一瞬何を言われたかわからなくて俺は首を傾げた。そして岡と佐藤という女の子のことだと気づく。何故男女が一緒にいるとすぐそういう話になるのか。
(ヒマなのかな)
ついそんなことを思ってしまう。岡の同期の子を見てなんとなく歳の離れた妹を思い出した。菜々子は元気にやっているだろうか。
「そうかな?」
俺は苦笑した。
「ホント男って鈍感なんだから。男同士でつるむのもいいけどたまには譲ってあげてね」
どっちが鈍感なのか。って、まさか俺と岡が付き合っているとは誰も思わないだろう。新は恋愛至上主義者かもしれない。あまり近づかないでおこうと思った。ちなみに今日桂は定時で帰った。だから新が俺に絡んできたのかもしれなかった。
俺の受難は残念ながらそれだけでは終わらなかった。
岡の仕事が先に終り、帰ってしまうと今度は中島に絡まれた。(後で岡の家に行くことになっている)
「なぁ、この間桂とメシに行ってたよな?」
「ああ、岡も一緒にな。それがどうかしたのか?」
「……俺のこと、なんか言ってなかったか?」
「なんで?」
絡まれるかもしれないと思っていたので顔の表情をあまり動かさずに済んだ。心構え大事。
「いや……つーかさ、桂は長井のことが好きなんだよ」
「……は……?」
俺は耳を疑った。ぽかーんと中島にマヌケ面をさらしてしまう。
「いやいやいやいや、なんの冗談だよ?」
どうにか意識を戻して苦笑する。そんなことは絶対にない。
「冗談じゃねえんだよ。ったく、なんで美々はこんな男同士でつるんでる奴が好きなんだよ」
愚痴のように聞こえたが俺が誰とどうつるんでたって俺の勝手だろうが。さすがにむっとした。なれなれしく桂の下の名前を呼ぶところもうざく感じる。
「まぁ……俺は岡と一緒にいることが多いけど」
「岡んちって会社に近いんだよな? だからって休日まで一緒に遊んでるわけ?」
「は?」
「少なくとも待ち合わせて出勤はしてるんだろ? どんだけ仲がいいんだよ」
中島の話を総合してみると、どうやら月曜日の朝に同じ駅で電車に乗ったところを見られていたようだ。俺は開き直った。
「仲いいんだよ。中島には関係ないだろ」
「んないつもかんも一緒にいて、お前らホモかよ」
「ホモサピエンスなのは中島もだろ」
「そっちじゃねえよ!」
「仕事が終わったなら帰りなさい」
「はーい」
部長の声がかかる。俺は残りの仕事をできるだけ早く片付けると、まだ何かいいたげな中島を無視して会社を出た。ちょうどタクシーが通りかかったので駅まで乗ることにした。意外と中島は粘着系のようだから後をつけられてはたまらないと思ったのだ。
「他人様の恋愛なんかどうでもいいじゃんな……」
無事岡の家に辿り着き、ジャケットを預ける。
「そんなに忙しかったのか?」
先に来ていた安田に声をかけられる。
「いや……」
岡にお茶を淹れてもらい、残業時間中にあったことを話したら岡は眉を寄せ、安田は呆れたような顔をした。
「会社勤めもたいへんだな」
安田が言う。
「会社勤めっていうか……主に人間関係だよな。ヘンに仲がいいからどいつもこいつもおせっかいが過ぎる」
「……佐藤さんとは何もありませんよ」
「わかってるよ」
岡が不機嫌そうに言う。俺は苦笑した。
「岡はゲイなんだっけ?」
安田が思い出したように聞いた。
「ええ。生まれてこの方男以外に欲情したことはないです」
「そっか。じゃあそれなりにたいへんだな」
「そうなんですよ」
二人で普通に話しているのを聞いて、俺はなんだか不思議なかんじがした。恋人と親友の仲がいいのは嬉しいけど少し複雑だった。
「先輩、今日はただ寝転がっていてくれればいいですからね」
「そうだな。俺たちが全部やるから智はただ素直に感じてろ」
そんなところで意気投合するのはやめてほしい。
今日の最大の受難は、この二人とのセックスではないかとちら、と思った。
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