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ハグとキス(社会人四年目七月) 1

◇◇◇  現在住んでいるマンションは、会社が借り上げているので社員寮みたいなものだ。  独身三十歳まではここで光熱費込五千円という破格の家賃で生活できる。結婚または三十を過ぎると追い出されるシステムだ。  単身赴任者も時々入るようだけれど、まあほぼ若い男達で埋め尽くされている。  そんな環境だから、平日夜に突然部屋に押しかけてくるハタ迷惑なヤツもいるわけで、その代表が今まさに俺の目の前にいる男。同じ部所の青木だ。  ちなみに部屋はワンルームで、七畳程度の広さ。キッチン周りを抜いて家具と言ったらベッドとローテーブルとテレビ位しかない。それだけでもうぎゅうぎゅうなのだ。そこに男二人で向かい合うとか、果てしなくウザい。  青木は仏頂面の俺に怯む事なく、缶ビール片手に満面の笑みを浮かべている。   「今日も疲れたねぇ、お疲れ様!」  プシュリと開けた缶ビールを俺の缶に軽く当てた後、ゴクゴクと喉を鳴らしながら缶を煽る。 「疲れたなら、自分の部屋で飲んでろよ」 「だってコンビニいったら、香取が酒買ってたからさあ」 「別に飲み相手とかいらねぇし」 「すぐ帰るよ~」  などといいつつ、ベッド脇に腰掛けて寛ぎ始める青木。毎度の事だが、主の俺よりも悠々自適に寛いでいる。こいつがゴロリと横になるのは時間の問題だ。 「そいえばさ、佐伯さんと経理の夏希ちゃん、付き合ってるって知ってた?」 「しらね」  他人の恋愛事情ほどどうでも良いものはない。 「浮気されて悩んでた佐伯さんを励ましてるうちにくっついたらしいよ。男女って単純だよね~」  二人が聞いたら青木に単純なんて絶対言われたくないって思うだろうな。どうでもいいけど。 「香取は浮気された事ある?」 「あるよ」 「えー!」  自分で聞いといて引くなよ。

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