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ハグとキス 2

「香取でも浮気されたりするんだあ」 「どういう意味だよ」 「うーん、なんつーか、香取ワールドにハマったら抜けられなそうな。マニアックなイメージあるからさ」 「何だそれ」 「何で浮気ってわかったの?」  ねぇねぇと身を乗り出す姿は完全に犬だ。ハルがゴールデンレトリバーなら、青木は柴犬あたりか。丸い尻尾をビチビチ振ってる感じ。 「鍵貰ってたから女んちに入ったら、真っ最中に出くわしたってだけ」 「げげー! 現行犯! そ、そんでどうしたの」 「別に……鍵置いて帰ったけど」  ふと、あの時の光景が甦る。 「別れたの?」 「別れたよ」 「香取、彼女にキレたりしなかったの?」 「なんでキレる必要あんだよ、そんなん別れて終わりだろ」  淡々と答えると、青木はでかい目をぱちぱちさせながら俺を眺めた。なんとも言えない微妙な面持ちだ。そんなに変なことを言っただろうか?  青木は「そっかぁ」と独り言のように呟き、持っていた缶を飲み干すと、ベッドに寝転がり天井を見上げた。まあでも香取っぽいといえば香取っぽいか、などとぶつぶつ言っている。  俺も缶ビールを煽り空にしてから、ゴロリと床に寝転んだ。 (久々に思い出したな)  あの日の光景と、泣きながら俺を責める彼女の顔。なんとも思わなかったと言えば嘘になる。俺だってそれなりに傷ついた。  でも、もう胸の痛みはない。  どうでもいい。  それよりも。

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