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ハグとキス 4
◇◇
結論からいうと俺は今、駅前のブリティッシュパブにいる。
キャッシュオンデリバリーのシステムと、店員に干渉されずに飲める空気を気に入っていて、何も考えずにここへ入ってしまったけれど、席についてから後悔した。
スポーツ観戦も出来るから、営業仲間とも良く来る店なのだ。職場の誰が居てもおかしくない。
(昔の女と入る店じゃなかった……)
考えなしの自分に舌打ちをしても今更だ。
目の前にいるのは、三年前に別れた女。「京香」と呼んでいた。正面から真っ直ぐに俺を見つめる視線は変わってないなと、昔を思い出す。
緩くウェーブのかかった栗色の髪をかきあげる仕草を眺め、手首の細さに驚く。
(少し……痩せたか)
小さな顔に大きな瞳。腺が細くて人形のように綺麗な容姿だけれど、力強い眼差しから気の強さが見て取れる。
誰にも媚びない姿勢が、好きだった。
「省吾、来てくれてありがとう」
「……朝まで待たれて何かあったら気分悪いし」
会う気はないとはっきり伝えても、来るまで駅で待つと言って聞かないものだから、渋々出て来る羽目になった。こういうところも昔のままだ。あの頃も、我を通されては俺が折れていた。
「ごめん……ここに住んでるって聞いて、どうしても会いたくて」
「つーかそれ誰から聞いたんだよ」
舌打ちをして問いただすと、俺の地元の友達だと答えた。
「でも名前忘れちゃった。陽気な人だったよ」
それだけでも喋った奴の見当はつく。
(後でぶっ飛ばす)
ジントニックを煽り、苛立ちを抑えようとした所で、京香の余計な一言が入った。
「相変わらず、優しいね」
真っ直ぐにそそがれる視線を睨み返す。うざい。そういうのいらねぇ。
「……は。何言ってんの? 勘違いすんなよ。迷惑だから来たんだぜ、別に……」
「うん、でも来てくれた」
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