25 / 428

ハグとキス 5

 ほんの少し微笑んだ京香に、苛ついた。  お前は俺の、何をわかってるっていうんだ。 「お前、会うなり三年ぶりに誘ってんの? その辺にホテルならいくらでもあるし、やるだけなら行ってもいいけど」  意地悪い言葉を吐き出すと、京香の瞳が曇った。気分悪くしてさっさと帰ってくれ。そして二度と俺に連絡しないでくれ。 「省吾……」  京香は何か言いかけたが、言葉を切り、目を伏せた。  そして再び俺を真っすぐに見つめると、ゆっくりと口を開いた。 「うん、いこ」  瞬間、脳裏にハルの顔が浮かぶ。  悩むより先に京香が立ち上がり、俺の腕を引く。逃がさないぞと言われてるようなものだ。まさかそうくるか。でも考えてみたら気の強いこいつなら、この反応はあり得た。 (どうすっかな……)  店を出た瞬間、名前を呼ばれてぎょっとした。 「あれぇ、香取じゃん」  嘘だろ。まさかの青木。更にその隣には、職場の女が二人。  会いたくない奴らと鉢合わせしてしまった。 「あら、香取君。彼女?」  職場イチの美人姉さんが目を光らせる。 「ちが……」  そこで、ハタと気付いた。  美人姉さんの隣にちょこんと立っている、ちっこい女。  まてまてまて。  そうだ、この間言ってた。 (こいつ、ハルの地元仲間って言ってたな……)  下手したら面倒くせぇ。額に嫌な汗がじわりと滲む。うっかりハルに何か誤解を招くような噂話でもされたら、最悪だ。俺とハルがつながっている事はまだ知らないはずだけども。考えただけで恐ろしい。 「なあんだ香取、急に追い出すと思ったら、デートだったんだ」  あははと笑う青木がうぜぇ。 「うぜー」 「ひでー!」  間違えた。  心の中のつもりが声にだしてしまった。

ともだちにシェアしよう!