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ハグとキス 5
ほんの少し微笑んだ京香に、苛ついた。
お前は俺の、何をわかってるっていうんだ。
「お前、会うなり三年ぶりに誘ってんの? その辺にホテルならいくらでもあるし、やるだけなら行ってもいいけど」
意地悪い言葉を吐き出すと、京香の瞳が曇った。気分悪くしてさっさと帰ってくれ。そして二度と俺に連絡しないでくれ。
「省吾……」
京香は何か言いかけたが、言葉を切り、目を伏せた。
そして再び俺を真っすぐに見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「うん、いこ」
瞬間、脳裏にハルの顔が浮かぶ。
悩むより先に京香が立ち上がり、俺の腕を引く。逃がさないぞと言われてるようなものだ。まさかそうくるか。でも考えてみたら気の強いこいつなら、この反応はあり得た。
(どうすっかな……)
店を出た瞬間、名前を呼ばれてぎょっとした。
「あれぇ、香取じゃん」
嘘だろ。まさかの青木。更にその隣には、職場の女が二人。
会いたくない奴らと鉢合わせしてしまった。
「あら、香取君。彼女?」
職場イチの美人姉さんが目を光らせる。
「ちが……」
そこで、ハタと気付いた。
美人姉さんの隣にちょこんと立っている、ちっこい女。
まてまてまて。
そうだ、この間言ってた。
(こいつ、ハルの地元仲間って言ってたな……)
下手したら面倒くせぇ。額に嫌な汗がじわりと滲む。うっかりハルに何か誤解を招くような噂話でもされたら、最悪だ。俺とハルがつながっている事はまだ知らないはずだけども。考えただけで恐ろしい。
「なあんだ香取、急に追い出すと思ったら、デートだったんだ」
あははと笑う青木がうぜぇ。
「うぜー」
「ひでー!」
間違えた。
心の中のつもりが声にだしてしまった。
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