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ハグとキス 8
◇◇◇
京香の事は、好きだった。
バイトに明け暮れていた俺に不満なのはわかっていたけど、それを変える気は無かった。
理由は単純だ。金が必要な貧乏学生だったから。
自分が浮気をしたのは俺のせいだと言って責める京香に失望したし、くだらねぇと思ったから、別れに迷いは無かった。
ただ、そう、悲しかった。自分は駄目な人間なんだなと思った。
あの時は。
(ハル……)
「省吾」
京香の声で我に変える。俺は京香の身体から離れた。
「……悪い、無理」
京香は俺の言葉など聞こえていないかのように、離れた俺の身体にしがみついてきた。
「ずっと、後悔していたの」
京香の身体から震えが伝わって来る。
「浮気した事も、省吾を責めた事も……別れた事も」
真っ直ぐに俺を見つめる大きな二つの瞳から、再び涙が溢れ出した。
「やり直したいの……」
突然抱き着かれ、そのままベッドに倒れ込む。俺の体の上に跨ってきた京香の行動にぎょっとしながら、いや待てなんで俺が押し倒されてるんだと軽くパニックに陥る。構図としては完全に俺が襲われてる方じゃねぇか。
「京……」
俺の手の平に自分の手の平を合わせ、ゆっくりと指を絡ませながら、俺をまっすぐに見つめる京香の眼差しの力強さに、射抜かれそうになる。
強引な所も好きだった。あの頃は。
でも今は。
「省吾、お願い……私の事まだ少しでも想ってくれる可能性があるなら」
「京香、どけって」
「嫌、お願い、チャンスを頂戴」
懇願する京香に、答えられなかった。
もう、違うんだ。
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