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ハグとキス 9

◇◇◇  ピンポンピンポンピンポン  連続でインターホンを鳴らすと、スピーカーから機嫌の悪そうなハルの声が聞こえてきた。 『誰だ』 「俺」 『……省吾?』  バタバタと足音が聞こえて勢いよくドアが開けば、息を荒げたハルが驚いた表情で俺を見つめた。 「お疲れ」 「え、えっ!? 何……」  テンパるハルを押し退け、ズカズカと部屋に入り込む。 「平日なのに、何かあったのか? しかもこんな時間に……」  玄関に鍵をかけ部屋に戻ってきたハルを、力一杯抱きしめた。 「お前が好きだ」 「え?」 「言いたくなったから、会いに来た」 「え?」 「それだけ。帰る」  言うだけ言ったらめちゃくちゃ恥ずかしくなって、ハルの身体から離れるとそのまま逃げるように玄関へ向かった。勢いでここまで来てしまった。こんな俺は俺じゃない。完全に血迷った。  スニーカーを足にひっかけたところでハルの両腕に取り押さえられ、引き戻される。強引に身体を振り向かされれば、正面には頬を赤くして嬉しそうに微笑むハルの顔。 「帰すわけないだろう」  今度はハルに力一杯抱きしめられた。  そのまま壁に押しつけられて、額に頬に唇に首筋に、キスの雨。  でもそれはとても心地好く、甘やかで。  俺はされるがままに、目を閉じた。  がその直後。  ベルトを外す音に思わず目を開けると、俺のジーンズに手をかけているハル。 「ちょ、おまっ……落ち着け! 玄関前だぞ」 「駄目、待てない」 「はぁっ!? アホかこの」 「だって省吾が俺を喜ばせる事言うから」 「待っ……!」 「声出しちゃ駄目だよ。玄関前だからね」  嬉しそうに俺の口を塞ぐハルを、鬼だと思った。  ああ、でも、駄目だ、もう。  ハル無しでは生きていけない。  かもしれない。 .

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