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夏迷路(社会人四年目 八月)1
玄関前の廊下で口を塞がれたまま尻を掘られるという、酷い一件から二週間程過ぎた週末。
ハルと俺は久々にドライブに出かけた。
いつもの如く運転手はハルで、俺は助手席。ハルの運転は振動も少なく安心できる。安心ついでに快眠してしまう。そんな俺にハルは文句のひとつも言った事がない。ありがたいことだ。
今日もすっかり寝落ちてしまった俺は、揺さぶり起こされ目を覚ました。
「省吾、着いたよ」
ウキウキ顔のハルに急かされ車を降り、俺も思わず息を飲んだ。
青い空の下一面に広がる、黄色い絨毯。
大輪の黄色い花達が、一斉に太陽を見上げている。
今日はハルの希望で、向日葵畑を観にやってきたのだ。
「一番良い時期に来れたみたいだな。これが一週間立つと、一気に皆下を向いてしまう」
ハルの言葉を聞きながら、これらが一斉に頭を下げた景色を想像する。
……非常に残念な光景かもしれない。
「ここ、迷路になってるんだ。行ってみよう」
子供みたいにワクワクした表情を見せるハルを眺めながら、それだけでも来て良かったと密かに思った。ハルの喜ぶ顔が見れれば、俺も嬉しい。
迷路入口に立つと、早速二手に別れていた。
「目指すのはあそこに見える、高台だ」
迷路の真ん中近くに、高台が見える。向日葵畑全体がよく見渡せそうだ。
「ふぅん。よし、競争しようぜ」
「えっ!」
「何だよ、一緒に歩くだけじゃつまんねぇじゃん」
「えー!」
うるせーな。女かこいつは。
「んじゃ俺、右いくわ」
ぶつくさいってるハルを置いて、俺は迷路の中へと足を踏み入れた。
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