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夏迷路 5
「お前に、似てると思ったんだよっ」
「何が」
「向日葵」
ハルがキョトンとした顔をして俺から向日葵へ視線を移した隙に、やっと腕から逃れて避難した。
手にしていたペットボトルの水を一気に飲み干し一息ついてからハルを見ると、まだ向日葵を眺めている。
「ハル、もう早くいこうぜ。疲れた」
「俺に似てるかなあ」
しげしげと向日葵を眺めるハルが何だか可笑しい。
「似てんじゃん。太陽も見ないで俺ばっか見てる」
ふざけ半分で答えると、ハルは成る程と呟き、くるりと振り向いた。
「省吾は俺の太陽なんだ」
は。
何恥ずかしい事を堂々と言い出すんだこいつは。
めっちゃ笑顔だし。
「俺のどこが太陽だよ。聞いてるほうがムズ痒いわ、勘弁しろ」
呆れ口調で言葉を返しても、奴には全く効いてないようだ。面倒なのでハルを置いてひとりで歩き始めると、やっとハルも歩きだした。
「そうか、やっぱり省吾は俺の事大好きなんだな」
ニヤニヤしながら隣に並び、俺の顔を覗き込む。この顔は過去の経験からいって、ヤバイやつだ。
「うるせー。そうでもねぇよ」
悪態をついてもハルの機嫌はうなぎ登りだ。嫌な予感しかしない。
「向日葵も堪能できたし、幸せな休日だなあ。この後は夕食の買い物して……夜ご飯は何にしようか」
「うーん暑いしな……思いうかばねぇなあ」
「帰りの車で考えよう」
「そうだな」
「あーはやく省吾の喘ぐ顔がみたい、ふふ」
めちゃくちゃ健全な会話してたとこからいきなり方向転換しすぎだろ。こいつの思考回路はどうなってるんだ。
……平行して三つも四つもありそうで怖いな、こいつの脳内。
「やらせねーよ」
精一杯の抵抗のつもりで呟くと。
「言わせないよ?」
笑顔で返された。
◇◇◇
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