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これから(社会四年目 九月)1

◇◇◇  金曜日。  珍しく早く上がれた俺はその足でハルのマンションへと向かっていた。  自宅に帰ったら最後、そのまま寝てしまいそうな程疲れていたし、ここの所ハルも残業で帰りが午前様だとぼやいていたから、ハルんとこで寝て待ってりゃ調度良いかと思っただけ。  ガタンゴトンと一時間も電車に揺れていると、スマホを弄っていても瞼が重くなってくる。  ウトリウトリと船を漕ぎ出し、俺は眠りの海へと沈んでいった。  はっと目を覚まし、周りを見渡せば乗客は疎ら。  金曜の夜にしては時間が早いせいか。乗り過ごしてはいないことを確認して、ホッと息をついた。スマホを見ようとして、ここでやっと手の中が空だということに気付く。弄っていたはずのスマホが、ない。  床に落としたかと見回してみても、それらしきものは見当たらない。  とその時、左脇からスッと差し出されたものが視界に入った。  あ、俺のスマホ。 「これ、落としてました」  隣に座る人物に顔を向けると、俺より少し年上だろうか、スーツ姿の若い男。ほんの少し口角を引き上げて笑みを浮かべた表情や身なりから、自信と余裕が感じられる、万人受けしそうなイケメンだ。 「ありがとうございます」  お礼を言い、スマホを受け取る。 (この人、俺が起きるまで持っていてくれたのか。いい人だな)  角が割れて居ない事を確認してから画面を開き、ハルに連絡を入れておこうとラインアプリを起動させた時、隣のイケメンが声をかけてきた。 「スマホを落としても起きない位、爆睡してましたよ」 「そ、そうですか……拾っていただいて助かりました」 「いえいえ」  クスリと笑われ、恥ずかしくなる。口でも開けて寝ていたかもしれない。かっこ悪いな、などと悶々としながら視線を下げ、男の上着に付いている社章が目についた。この形、見たことある……。 「あ」 「え?」  思わず声を出してしまい、とっさに手を口にあてた。男は既に不思議そうな表情で俺を見つめている。  あの社章は、ハルが勤める製薬会社だ。

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