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これから 2
男は微かに首を傾げ、それから遠慮がちに口を開いた。
「きみ、もしかして小出春樹の……」
ギョッとして思わず男を凝視してしまった。
ハルの名前だ。この男、俺の顔を見てハルの名前を口に出した。
(な、なんだ? なんで……)
ハルの知り合いだとしても、俺の事を知っているのは変だ。
悪い事しか想像できず、じっと黙ったままの俺を見て男はふっと笑った。
「やっぱり……いや、写真を覚えていて。似てるなと思ってたんだ」
「……は?」
写真って。なんだよ写真って。ハルから?どういうことだ。意味がわからない。
ますます血の気が引いていく俺と対象的に、フランクに話し掛けてくる男。
「ハルに会いに来たのかな? 最近はずっと残業続きだから、今日もまだ仕事中だろうな。俺は出張の帰りで、職場に顔を出そうかと思っていたんだけど……」
途端に馴れ馴れしく話しかけられて面食らう。
一人で勝手にぺらぺらと喋り始めて、なんだこの男は。ハルが遅いのなんてわかってるし。ていうかこいつ、なんでハルとか呼んでるんだ。親しい仲なのか。どうでもいいけど、うぜぇ。
面倒臭いからガン無視を決め込んだ矢先。
「やっぱりやめた。ハルが帰宅するまでまだ時間があるだろうし、一杯付き合わないか」
すっと眩暈に襲われる。なんだそれ。
いやいや、お前の事知らねぇし。
知らねぇ奴と仲良くする気ねぇし。
マジ勘弁。
と言ってやりたいところだが、流石にこんなところで喧嘩を売るわけにもいかないし、スマホを拾ってもらった恩があることを辛うじて思い出して、丁寧な対応で返さねばと改めた。
「いや……」
とりあえずさっさと断ろうと口を開いたその時、駅に停車し扉が開いた。
「ここの駅前にいい店があるんだ。さ、行こう」
笑顔で腕を捕まれ、あっという間に下車させられた。嘘だろ。
何だこいつー!!
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