39 / 428

これから 5

「愛を受け入れるにはそれに見合う器が必要だ。きみは自分の都合ばかりをハルに押し付けていないか」 「……知ったような事を言うな」  何でこんな知らねぇ奴の言葉が。  胸にジクリと突き刺さる。  立ちあがり財布から札を抜いて机に置くと、サワケースケはご馳走するよと微笑んだ。誰がお前なんかに借りを作るか。 「もう帰るのか、もう少し話をしたかったのに」 「二度と会わねぇよ」 上着を掴み、サワケースケに背を向けると、背中から声が聞こえた。 「大丈夫、俺から会いに行くよ」  この声、絶対笑ってる。  一秒も同じ空気を吸いたくなくて、振り返らずに店をでた。苛立ちが治まらない。理由は、わかっている。サワケースケにもムカついたけど、この苛立ちはそこじゃない。  核心を突かれて動揺した自分に、苛立った。  駅のホームで少し迷ったけれど、結局ハルのマンションへ向かい、主のいない部屋の明かりを付けて、リビングのソファへと倒れ込んだ。  そのまま目をつぶり、先程の出来事を思い返す。  サワケースケ。  自信に満ち溢れた顔で、歯の浮くような台詞を言い切やがった。 (めちゃくちゃ苦手だ、ああいうやつ) 『ハルを愛している』 「……知るか」  ハルが誰に何を言われようと、俺がごちゃごちゃ言う事じゃねぇ。  ハルが俺に何も言わないなら尚更だ。 (ハルは俺に何も言わない……)  仕事の愚痴も、日常の不満も、俺が嫌がる事も……聞いた事がない。  サワケースケの言葉にギクリとしたのは、そうだ。  俺は確かにあいつに甘えてばかりで、正面からあいつを支えようとした事があっただろうか。 「……疲れた」  身体がだるい。  俺はソファに身を投げ出したまま、眠りに落ちていった。

ともだちにシェアしよう!