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これから 5
「愛を受け入れるにはそれに見合う器が必要だ。きみは自分の都合ばかりをハルに押し付けていないか」
「……知ったような事を言うな」
何でこんな知らねぇ奴の言葉が。
胸にジクリと突き刺さる。
立ちあがり財布から札を抜いて机に置くと、サワケースケはご馳走するよと微笑んだ。誰がお前なんかに借りを作るか。
「もう帰るのか、もう少し話をしたかったのに」
「二度と会わねぇよ」
上着を掴み、サワケースケに背を向けると、背中から声が聞こえた。
「大丈夫、俺から会いに行くよ」
この声、絶対笑ってる。
一秒も同じ空気を吸いたくなくて、振り返らずに店をでた。苛立ちが治まらない。理由は、わかっている。サワケースケにもムカついたけど、この苛立ちはそこじゃない。
核心を突かれて動揺した自分に、苛立った。
駅のホームで少し迷ったけれど、結局ハルのマンションへ向かい、主のいない部屋の明かりを付けて、リビングのソファへと倒れ込んだ。
そのまま目をつぶり、先程の出来事を思い返す。
サワケースケ。
自信に満ち溢れた顔で、歯の浮くような台詞を言い切やがった。
(めちゃくちゃ苦手だ、ああいうやつ)
『ハルを愛している』
「……知るか」
ハルが誰に何を言われようと、俺がごちゃごちゃ言う事じゃねぇ。
ハルが俺に何も言わないなら尚更だ。
(ハルは俺に何も言わない……)
仕事の愚痴も、日常の不満も、俺が嫌がる事も……聞いた事がない。
サワケースケの言葉にギクリとしたのは、そうだ。
俺は確かにあいつに甘えてばかりで、正面からあいつを支えようとした事があっただろうか。
「……疲れた」
身体がだるい。
俺はソファに身を投げ出したまま、眠りに落ちていった。
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