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これから 7
「俺の嫌いな匂いだ」
ぽつりと呟いたハルを見上げると、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべている。
それはお前の同期の事か。
喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺はハルから顔をそむけて、つけっぱなしの卓上ライトとPCに視線を向けた。
「邪魔して悪かった、仕事戻れ」
「省吾が起きたら終わりにするつもりだったからいいんだ」
首すじから鎖骨にかけて唇を滑らせながら答えるハルに、くすぐったいと文句を言うと、チリリと痛みが走った。
赤く印をつけられ、ハルの身体を無理矢理押し退ける。
「嫌な匂いなら近付くな。とにかく風呂に行かせろ」
「お湯張ってから、一緒に入ろう」
「嫌だ、ひとりがいい」
「たまには俺のお願いも聞いてよ」
ハルの言葉に、ドキリとした。
一瞬言葉に詰まった俺に気付いたのか、どうしたと俺の頬を撫でるハル。
「省吾の悪態がとまると、逆に不安になる」
なんだそれ。
なんか捻じ曲がってないか。
でもそれも、俺のせいなんだろうか。
「ハル」
「ん?」
「……一緒に入るか、風呂」
モゴモゴと答えてからハルの顔を見上げて、俺は再び言葉に詰まった。
目を丸くして驚いた表情のハル。
それからもう無理って位に口角を上げ、嬉しそうに微笑んだハルを見て、俺は思った。
言葉って、大事なんだな……。
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