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これから 12
◇◇◇
「……それで、古藤くんは?……ああ、うん」
遠くで声が聞こえる。眠りから覚醒してもまだ目蓋は上がらず、目を閉じたまま隣に手を伸ばしてみた。居るはずのハルがいない。
声はリビングの方から聞こえてくる。
どうやら電話をしているようだ。
サイドボードへ手を伸ばし、スマートフォンを手繰り寄せる。時刻を見れば八時五分。
昨晩は久々に二人で風呂に入って、お互い気分も上がって結局明け方近くまで仲良くやってしまったから、まだまだ眠い。寝ていたい。
俺は大きく伸びをしてから身体を起こし、重い腰を庇いつつ、のたのたとベッドから降りた。
静かにリビングの扉を開くと、スマホを耳に当てたまま振り返るハル。既にシャワーを浴びたようで、ボディソープの良い香りを漂わせている。
「わかった、とりあえず今から行くから……圭介は車? ああ俺も車で行く。じゃあ後で」
ケースケ。
(サワケースケか)
昨日の男の顔を思い出し、何となく気分が暗くなる。
「おはよう省吾。ゴメン、急に職場から呼び出しが入った」
通話を切るなり申し訳なさそうな表情のハル。
「はよ。そっか大変だな」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、扉を閉めたところで後ろから抱きつかれた。
「出来るだけ早く帰るから」
首筋に鼻先をつけてスンスンと匂いを嗅ぐものだから、やめろと言ったら噛みつかれた。痛いと言えば、今度はちゅうと吸いついてくる。
「俺で遊ぶな、さっさと準備しろって」
「省吾、ぜったい帰るなよ」
念を押すハルが可笑しくて、思わず笑いがこぼれる。
「わかったから早く仕事行け」
「帰ってお前が居なくなってたらキレる」
「誰にキレんだよ」
「俺を呼び出した同期に」
飲みかけていた水を思わず吹き出し、そこちゃんと拭いておけよとハルに怒られた。
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