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逢いたかったひと 4
◇◇◇
午後の講義を終え、校舎を出たところでスマートフォンが鳴った。着信相手を確認し、眉を寄せる。
「……はい」
『ハル、久しぶり』
「何、突然」
『渋い顔するなよ、会いたくなってさ』
「は?」
『前みろ、前』
まさかと思い正面に目を向けると、スマートフォンを耳に当てたままこちらにむかって軽く手を挙げる男の姿が見えた。
「圭介……」
二歳年上の佐波圭介に会うのは久しぶりだった。以前、何度か身体の付き合いをした相手でもある。
俺は重い足取りで奴に近づき、ため息とともに久々の挨拶を交わした。
「院生さんは忙しいんじゃないの」
「就職も決まってるし、ボチボチだな。お前の方はどうだ? すっかり道場に来ないから親父が淋しがってたぞ。就職も決まったようだし、たまには息抜きに来いよ」
道場と聞いて、そういえばそうだなと呟いた。随分と竹刀を振るっていない。忙しかったのと、圭介に会うのを避けていたというのが主な理由だ。
剣道は中学に入ってから部活と平行して道場へ通い始め、大学へ入るまではよく通っていた。
道場の中で唯一、圭介にだけは敵わなかった悔しさを思い出す。
「そういやお前、随分綺麗な彼女がいるらしいじゃないか」
「……俺の就職だとか彼女とか。どこから情報入手してるんだ」
「色々。女で満足してるのか?」
ピクリと自分の眉間にしわが寄るのがわかった。
「……至って平和」
ふぅん、と鼻で笑うように口角を引き上げた圭介を軽く睨む。
「んじゃ今日は少し平和を忘れてみるか、俺で」
「いらない」
「そう言うなよ。久々にどうだ、腕ならしに1本勝負」
その言葉に、グラリと来た。時計を見て、バイトまでの時間を計算する。
(少しの余裕ならあるか……)
圭介と俺は並んで歩き出した。
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