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逢いたかったひと 5
子供の頃から続けていた剣道は、楽しかった。
道場で会う圭介は誰よりも強く、どんなに勝負をしても敵う相手じゃなかった。
ある時、圭介が俺に持ち掛けた賭け。
『俺とお前の身体を賭けようぜ』
俺は無条件にそれをのみ、勝負に挑んだ。
結果、まんまと圭介の策略にはまった俺は、十六歳の冬に男の身体を知ることになった。
とはいえ圭介とのそれはまるでスポーツの延長のようで、不思議と違和感を感じなかった。
恋でもない。
愛でもない。
剣道では勝てない圭介を組み敷き攻める快感に、若い俺は溺れてしまったんだ。
◇◇◇◇
竹刀が音を立てて床を転がっていく。
痺れる手首を押さえながら圭介を睨むと、面子をとった圭介は楽しげに微笑んでいた。
「鈍り過ぎだ、ハル」
煩い、と言いたくても負け犬にしか聞こえない。黙っていると、圭介は俺の手首を掴み、ぐいと引き寄せた。
「俺の勝ち」
俺達の賭けは、昔と変わらない。
圭介と俺は、久しぶりに身体を重ねた。
彼女とのそれとはまるで違う激しさに、俺は確かにそれを望み、受け入れた。
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