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逢いたかったひと 6

 夜も十時をまわると客足も途絶え、俺はホールから厨房へ移動し、皿洗いに専念を始めた。  久々の圭介との一戦からバイトへ直行した俺は、重い腰にぐったりしながら黙々と仕事をこなしていた。久々な上に掘られる側になるとは、予想の斜め上をいっていた。圭介の楽しげな表情を思い出し、思わず舌打ちが漏れる。 「ハル」  名前を呼ばれ振り向くと、省吾が立っていた。 「なに」  正直、会話する元気も無い。黙って働かせて欲しい。 「お前、具合悪いんだろ」 「え?」 「すっげ顔色悪いし。ここは俺やるから、お前もう上がって休んでろよ」  ほらどけ、と言って洗い場から俺の体を脇に押し、省吾は洗い物を始めた。  そんなに顔に出ていただろうか。他の奴らにはバレてないと思うんだけどな。  ボケッと突っ立ている俺に、省吾は舌打ちをしてさっさと行けと促す。 「……ありがとう」  お礼を言った瞬間、俺は見てしまった。  一瞬で真っ赤に染まった省吾の顔と耳。  が直ぐに洗い場に向き直り、ガシャガシャと音を立てながら皿を洗い始めたので、それ以上見る事は出来なかった。  洗い物をする省吾の後ろ姿を見つめながら、俺はふと思った。  ぶっきらぼうな言葉遣いの裏に隠された、香取省吾の観察力と気遣い。 (そうか、省吾って……優しいんだな)  更衣室でゴロリと横になり、俺は俺なりに香取省吾という人間について解釈をしながらふっと頬を緩めた。  真っ赤になった省吾は、可愛かった。

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