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逢いたかったひと 8
店長が休みということで省吾が一日厨房に入り、忙しい時間帯も問題無く過ぎていく。キビキビと働く省吾はいつも通りで、更衣室の違和感はやはり気のせいだったかと思い起こした矢先の出来事だった。
「ハル」
持っていけと省吾がハンバーグを灼熱の鉄板に乗せそれを木皿に移した瞬間、体勢を崩した。
鉄板は見事に省吾の腕に落ち、ジュッという音を立てて床に落下した。
「省吾!」
ガシャンと激しい落下音が厨房に響き渡る。
「あっつ……」
「バカ早く冷やせ!」
突っ立ってる省吾の腕を乱暴に引き、シンクの蛇口を思い切りあけ水を浴びせる。
「……わりぃ」
ワンテンポ遅れて省吾が呟き、俺は手を放した。
どうしたと顔を出すホールの連中に、大丈夫と声をかけ、散らばった鉄板達を拾い集めながら、俺は省吾の背中に声をかけた。
「代わりのは直ぐに作るから、お前は暫く水を当てていろ。ある程度冷えたら氷を袋に入れて患部に巻いておけ」
うんと小さな声が聞こえ、悪態をつかない辺り大分へこんでいるなと思いながら、ハンバーグを作り直す。
その後の省吾は終始無言だった。
◇◇◇
「んじゃあ先上がるけど、お大事にな」
レジの計算で居残る省吾に皆口々に労りの言葉をかけながら仕事を上がっていった。
何となくテーブルに座り頬杖をつきながらぼんやりと省吾を眺めていると、俺の存在に気付いたのか省吾が顔を上げた。
「ハルも上がれよ。俺はこれ終わったら上がるから」
慣れた手付きで計算機を叩く省吾は、既にいつもと変わりなく見える。
けれど。
「……元気か?」
何となく声をかけてみると、省吾は少し笑った。
「元気じゃねーよ、店のもん落っことすし、腕は痛ぇし」
そりゃそうかと俺も笑う。
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