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逢いたかったひと 9
省吾を残して俺も上がり店の外へ出ると、吐いた息は白く空へと吸い込まれていった。
「さむ……」
何気なく呟いた直後。
くしゅんと小さなくしゃみが聞こえ、店の道路脇に目を向けると、ひっそりと佇む女性の姿が目に入った。
店から出てきた俺と目が合い、直ぐに俯いてしまったけれど、この店の誰かを待っているのろうか。
鼻を啜る音が聞こえ、この寒空の下で何をしているんだと心配になる。
「あの、誰か待ってる?」
お節介かと思いつつも声をかけてみると、ちらりと視線を向けられただけで、再び俯いてしまった。
でも中にはもう省吾しか残っていない。
他の誰かを待ってるんだったら可哀相だなと、もう一度声をかけてみた。
「香取省吾以外は全員帰りましたけど……」
その言葉にピクリと反応し、女性は再び顔を上げた。
綺麗な人だなと目を見張ったその時、ドアから省吾が顔を出した。
「店の前で何独り言言ってんだよ。気持ち悪いからさっさと帰……」
省吾の声が途切れ振り返ると、省吾は大きく目を見開き、目の前の女性を見つめていた。
「……何やってんの」
省吾の言葉に彼女は言葉を返さず俯くだけ。けれど、二人が知り合いであるということはすぐに理解した。
省吾はため息をつきながら女性の前まで赴き、ポケットに手を突っ込んだまま、寒いから中に入れと短く声をかけた。
俺はこの場に居てはいけない気がして、省吾にお疲れと声をかけ店を後にした。
(彼女、だろうな)
随分綺麗な子だったなと、先ほど見た光景を思い出す。あの雰囲気、喧嘩でもしたんだろうか。
(様子がおかしかったのは、そのせいか)
あの二人の姿が頭から離れず悶々と考えながら数分歩いたところで、ポケットに入れた手の違和感に気付く。
「……ない」
家の鍵が、ない。
記憶を辿り、ロッカーのサイドポケットに入れたままだった事を思い出した。
「……最悪だ」
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