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逢いたかったひと 10
あの重苦しい空気の中に戻るのは、正直きつい。無理がある。
けれど、鍵がないとどうしようもない。
戻って激しい修羅場に遭遇するのも、争いおさまり愛に暴走するふたりを目撃するのも、想像するだけで、どっちも嫌だ。
俺は暫く頭を抱え、結論から言うと、戻る事にした。
店の外から様子を見て、取りにいけそうなら入る。
入れる雰囲気ではなさそうだったら鍵を諦め、彼女か大学の友達の家かネカフェに宿泊する。既に省吾が帰っていた場合も同様。
これで行こう、と自分に言い聞かせ、道を戻ること数分。
店の明かりが見えてきた。
念のため、店の裏口が空いているかどうかを確認してみると、開いていた。
悩んだ時間の無駄ぶりに脱力しながら、裏口から直接ロッカールームへと向かう。
始めからまずは裏口を確認すれば良かったのだ。そんな事にも気付かないなんて、相当疲れているなとため息をつく。情け無い。
ロッカーを開けると、予想通りサイドポケットに入ったままの鍵を発見し、はぁと息を吐いたその時、ホールから悲鳴に近い女性の声が聞こえてきた。
「どうして何にも言わないの!?」
これは修羅場の展開かと、息をひそめ耳をそばだててみたが聞こえるのはヒステリックな女の声ばかり。
省吾の声はまるで聞こえない。
(……参ったな)
俺は更衣室の椅子に腰をおろし背もたれに重心をかけ、天井を見上げた。
さて、どうするか……。
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