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逢いたかったひと 11

「頭にきたなら、許せないなら責めてよ! 怒ってよ……!」  女の声が響く。  泣いているのかもしれない。 「そうよ、省吾のせいよ! 私……ずっと淋しかった……!!」  あぁ……と他人事ながらため息がでてしまった。あのシフトを見ただけでも、彼女のストレスは想像がつく。 「黙って行かれたら私……責める事も出来ないじゃない……悪いのは省吾なのに……」  女の声が途切れ、泣き声に変わった。  やがて省吾が何かを口にしたがこちらまではよく聞こえず、女のヒールの音と、勢い良く閉まったドアの音が響いた後、ホールはしんと静まり返った。  そこではっと気付く。 (まずい、省吾がここへ着替えに来る前に帰らないと)  急いでロッカーに鍵をかけ、更衣室の扉を開けた瞬間、厨房から姿を現した省吾と鉢合わせた。  大きな目をさらに大きくさせて固まった省吾を見て、俺も固まった。 「……なんでいんの」 「いや、家の鍵を忘れて裏口から……」  どもる俺に冷たい視線をむけた後、あっそ……と小さく呟いた。  いつもと変わらない、どうでもいいような表情。  黙々と着替え始めた省吾をなんとなく見つめながら、俺は一言、声をかけてみた。 「寒いし……ラーメン食いにいくか」  来るとは思わなかったけれど、なにか言葉をかけたかった。それだけの事だったのだが、省吾はコートを羽織りながらチラリと俺を振り返ると、いいよと返事をした。 「え?」 「お前から声かけて聞き返すなよ。寒いし。おでんのがいい」 「おでん……」 「嫌ならいいけど。ひとりで行くし」 「い、行く!」  チャリ、と鍵を鳴らし振り向いた省吾はほんの少しだけ、笑ったように見えた。

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