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逢いたかったひと 13
本当にこいつ大根しか食べてないなと、その様子を眺めていると、ふいに省吾が呟いた。
「……俺って、冷たいんかな」
ポツリと呟いた言葉は、誰に問いかけるわけでもなく、自分自身へ向けられた言葉に聞こえた。省吾は下を向き、箸で大根を割っている。
「……そんな事を考えるなら、お前は優しいんじゃないの」
何となく思った事を口にしただけだった。
ちくわを口に入れようとした時、視界の端で省吾がこちらを向いたのが見えて思わず手を止める。
俺が省吾へ視線を向けると同時に省吾はパッと視線を外し、再び器の中の大根に視線を落とした。まるで覗き見をみつかった子供のように思えて、ふっと頬が緩む。
俺達はそれからしばらく無言のまま、酒を呑んだ。
「あ」
時計を見て思わず声を漏らした俺に、省吾が少し眠そうな顔を向ける。
「なんだよ」
「終電逃した」
まさかの失態。本当に今日の自分はぼんやりし過ぎだと、苦い気持ちで悔やみながら、しょうがないから歩くかとひとりごちた時、省吾がサラリと言った。
「泊めてやるよ」
「え?」
「寒いし。歩いて帰んのかったりぃだろ」
「……いいの?」
「すんげボロイけど」
省吾は何でもない事のように言い、それから店の親父にお勘定と声をかけた。
しんと静まりかえった空気は冷たく、白い息は真っ黒な空へと吸い込まれて行く。
星の見えない、都会の空。
それでも北極星だけは目に見える程に光り輝き、何だかホッとする。
繁華街から少し離れた住宅街を、俺達は並んで歩いた。
途中コンビニへ寄り、宿泊代として酒と軽いつまみを買うと、省吾は素直に喜んだ。
そんな省吾を見ながら、嬉しいと思う自分に少し驚く。
省吾の事を知っていく事が、何だか嬉しい。
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