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逢いたかったひと 15

 無造作にテレビをつけ、こたつの上の参考書を片付ける省吾を見て、ちゃんと勉強もしてるんだなあと妙に感心してみる。  俺の視線に気付いたのか、何だよという表情でこちらを睨んだ。 「いや、勉強してるんだなと思って」 「T大のお前に言われるとなんかムカつくな」 「偏見だろ」 「まぁ、卒業出来ればいいんだ俺は」  呟くように言った省吾に表情は無い。どうでもよいと思っているんだろうなとわかる。どうでもよい基準はなんなんだろう。 「なぁ、省吾は何であんなにバイトしてるんだ」  度を超えているだろうと、軽く質問してみれば、アッサリと返された。 「金が必要だからに決まってんだろ」  そりゃそうだろうけど。 「ここの家賃と生活費と、奨学金の返済もかかってくるし……とにかく金が必要なの」  何でもない事のように言う省吾を、まじまじと見つめた。 「……丸々全部自分でやってるのか?」 「あー、仕送り? 貰ってねぇよ。うち母ちゃん一人だし、はっきりいって貧乏なの。大学だって俺は行かなくて良かったんだけどさ。母ちゃん自分が学ねぇから、男の俺には大学行けって煩くてさ」  テレビを見ながら、世間話のように話しはじめた省吾の言葉を、俺は黙って聞いていた。 「しかも金ねぇから国立行けとか無謀すぎること簡単に言うし。ふざけんなと思ったけど、しょうがねぇから勉強しただけ。まぁ大学行って母ちゃんが喜ぶならいっかって、俺すげぇいい息子だろ」 「……うん」 「真面目に返すなよ」 「そうか、ごめん」 「うぜぇ」  何て返せばいいっていうんだ。 「省吾は春からどこに勤めるんだっけ」 「サンコーエイ。一応一部上場企業だし、母ちゃんも安心だし、まいっかって程度」 「そうか」 「ハルは?」 「製薬会社の研究員、かな」 「研究かー、薬作るの」  子供みたいな質問に思わず笑ってしまった。 「直接じゃないけど、まあそれに繋がるような研究かな」 「ふぅん、難しそうだからその話はもういいわ」  自分から振っておいてそれか。

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