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逢いたかったひと 16

 その後も省吾はいつになく饒舌で、おでん屋の酒のせいだろうか、少し頬の赤い顔が可愛いなと眺めながら話を聞いていた。  缶ビールを数本空けた後、俺達は安い焼酎を水割りで飲みはじめた。 「……京香の言い分は、わからなくもないけど、やっぱどーでもいいと思ったんだ」  京香。今日の彼女の事かと思い出しながら、相槌を打つ。 「好きだったんだけどな……あんなん見て引いたし、俺のせいだって責める京香にも引いた……けど、確かに俺のせいだよなっても思う」 「そうか」 「……でもやっぱり、全部どーでもいいって思っちゃうんだよな」  そこまで話した後、省吾はぺたりとテーブルに頬を当てたまま静止した。 「……省吾?」  すぅ、と寝息が聞こえ、やれやれとため息をつく。 「省吾、布団で寝ないと風邪引くぞ」  こたつ以外暖房器具のないこの部屋の空気は、しんと冷たく、何だか淋しさを感じる。それはまるで省吾の淋しさに思えた。  突っ伏した身体をゆっくりと抱き起こすと、省吾の睫毛が濡れていた。  それを指先でそっと拭い、髪を梳くように撫でてみれば、見た目よりも柔らかな黒髪で、ふと、もっと触れていたいと思った。俺は二度三度、そっと髪を撫でながら、省吾の寝顔を見つめた。  時刻は深夜二時を回っていた。  静かに布団を敷き、寝息をたてる省吾をそっと寝かせ、少し考えた後、その隣に自分も横になった。  こたつで寝るのが正解だろうと解ってはいるものの、眠っている省吾から避難の声は上がらない。ならば隣で寝てしまおうと安易に考えた自分も酔っているのかもしれない。  先程まで濡れていた睫毛は既に乾いていた。  それを眺めているうちに、肌に触れてみたくなり、気付けば瞼に唇を当てていた。心臓の音が耳に響く。ドクドクと早鐘を打つ自分を、止められない。  省吾の体温が唇に伝わる。  俺は省吾の身体に腕を回し、冷えた身体をゆっくりと抱きしめた。  壊れないように、そっと。

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