70 / 428

逢いたかったひと 17

◇◇◇  突然腹を殴られ、うっと目を覚ました。 「痛い……」 「離せこのっ!」  寝ぼけながら数回瞬きをして、胸の辺りでジタバタしている省吾に気付く。 「人を抱き枕にしてんじゃねー!」  どうやら省吾に腕を回したまま眠ってしまったらしい。  俺は寝ぼけたふりをして、更にぎゅううと抱きしめてみた。 「ぎゃああ! やめろ!」  ……面白い。  と思ったのも束の間、顎に頭突きをくらい、思わず腕を離す。 「いってぇ……」 「自業自得だボケ! 俺をお前の女と間違えるんじゃねぇ」  省吾は頭から湯気を出す勢いでプンスカしながら布団から這い出ると、引き戸の向こうへ消えた。  再び現れた省吾の手には、ミネラルウォーターのペットボトルとグラスが二つ。  ジャボジャボと二つのグラスに水を注ぎ、まずは水を飲めとこたつの上に置かれた。 「……ありがとう」  モソモソと布団からこたつへと移動し、グラスの水をじっと見つめながら俺は思った。 (やっぱり、省吾は優しい) 「何ニヤニヤしてんだよ、気色悪りぃ」  指摘され、慌てて顔を引き締める。 「俺は大学行くし風呂入ったら出るぞ。ハルも入るか?」 「え、一緒に?」 「お前……頭打ったんか? 俺の後に決まってんだろバカ」  確かに。  思わず口走ってしまった自分の思考回路が何やらおかしい。 「あ、俺は一旦帰るから風呂はいいよ。省吾、朝飯は?」 「時間ねぇし、コンビニで何か買う」  押し入れの中の衣類ケースから着替えとタオルを取り出し、風呂場へ向かう省吾の後から俺も部屋を出た。

ともだちにシェアしよう!