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逢いたかったひと 18
小さな冷蔵庫を開け、数少ない食材を確認する。
卵、ソーセージ、味噌。玉ねぎ、ジャガ芋。冷凍庫には冷凍ご飯まで入っている。シンク下の棚を漁ると、乾燥ワカメまで出てきた。
「男の一人暮らしにしちゃ、自炊している方か」
(昨日から省吾を見直してばかりだな)
今までどれだけ表面上しか見ていなかったか改めて気付き、知る事を嬉しく思った。
(いや待てよ、彼女が使っていたかも知れないな)
そんな事を考えながら簡単な朝食を用意し終えた所で、省吾が風呂から出てきた。
「マジ? 飯作ってくれたの?」
濡れた髪をタオルでワシワシ拭きながら、キッチンに立つ俺を驚きの表情で見つめている。
「朝食は大事だからな。泊めて貰ったお礼」
「お前、いつでも嫁に行けんな」
笑いながら言われ、思わず顔が熱くなる。
自分が喜んでいる事に気付いて動揺した。喜ぶ俺は、流石におかしい。
目玉焼きとソーセージ、ジャガ芋とワカメの味噌汁に白飯。こんな簡単な朝食を、省吾はビックリする位、嬉しそうに食べてくれて、その様子を見ている俺も、何だか嬉しかった。
外に出ると晴天の陽射しが眩しい程で、先程までいた部屋の日当たりの悪さに気付く。省吾はまるで気にしちゃいないようだけど、窓から日差しは皆無だった。
「ハル、今日バイト?」
「ああ、夜から」
「そうか、んじゃまた夜にな」
軽く手を振り電車に乗り込む後ろ姿を見送りながら、俺は昨晩の出来事を思い返していた。
省吾を乗せた電車が走り去り、自分も到着した電車に乗り込み、窓の外をぼんやりと眺めながら、省吾の事を考える。
頭に浮かぶのは、省吾の事ばかりだった。
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