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逢いたかったひと 19
家に着く頃着信が入り、ポケットからスマートフォンを取り出し確認すると、着信相手は彼女だった。
特に約束はなかった筈と思いつつ電話にでてみると、久々の会話とは微塵も感じさせない様子で、おはようと言う言葉から会話は始まる。
彼女とはいつもこんな調子だ。連絡を頻繁に取る事を強要されず、彼女からもそれほど連絡が来る事はない。良好な関係だ。
「おはよう、どうした?」
『ハル、今日は午後からかなと思って』
「うん」
『仕事お休み貰えたんだ、久々にお昼作りに行こうかな』
バイトも重なり、社会人の彼女とは二週間程会ってない。
正直少し眠りたかったけれど、連絡をくれた彼女を優先するべきだなと小さく息を吐く。
「……うん、ありがとう、待ってるよ」
彼女は嬉しそうに電話を切った。
家に帰って直ぐにシャワーへと直行し、上がってタオルで髪を拭きながら、あまりの眠さにベッドに倒れ込み目を閉じた。
……疲れたな。
もうすぐ彼女がくる。
少し部屋も片付けないと。
そんな事を考えながら、ウトウトと眠りに落ちていった。
寒い。
ひんやりとした静けさの中を歩いていた。
前方に影がみえる。
それは見覚えのある後ろ姿へと変化し、やがて省吾だと気付く。
近付いて声をかけると、振り向いた省吾は泣いていた。
胸が痛い。省吾の泣き顔は見たくない。
俺は省吾の身体を引き寄せ、抱きしめた。
俺を見ようともせず、目を伏せて涙を流す省吾がもどかしくて、俯く頬を引き上げた。
唇に触れると、氷のように冷たい。
俺は何度もキスを繰り返し、冷たい身体を抱きしめた。
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