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逢いたかったひと 20

「……ル、ハル」  耳元で囁かれ、ゆっくりと瞼を開くと、横たわる俺に被さるようにして覗き込む彼女がいた。 「インターホン押しても出て来ないから、入っちゃった」  ごめんねといいながら俺の髪に触れる。 「髪も濡れたままで風邪ひくじゃない。シャツも着ないで……」  言い終えるより先に彼女を引き寄せ唇を塞ぎ、舌を潜らせ歯列をなぞると彼女は嬉しそうに俺の背中に腕を回した。 「ハル……どうしたの」  彼女の言葉には答えず首筋にキスをすれば甘やかな香りが鼻をくすぐる。  彼女の身体は透き通る程に白く、しなやかで柔らかく、温かい。  おかしい。  どうして。  どうかしてる。  浮かび上がる省吾の顔を打ち消すように、俺は彼女の身体を求めた。  このまま、溺れてしまいたかった。 「ハル……」 『ハル』  ……やめろ。 「ハル、」 『……ハル』  ……呼ぶな。呼んで欲しいのは……。 『ハル』 「私に、会いたかった……?」  うっとりとした表情で俺の頬を撫でる彼女を見つめる。 「……うん」  俺は笑顔で、嘘をついた。

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