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逢いたかったひと 23
◇◇◇
十二月二十三日。
世間一般でいう、クリスマスイブイブ。
バイト先のレストランは大繁盛、休憩に入る余裕もなく閉店を迎えた。
「皆、今日は頑張ったな! 明日明後日も宜しく頼む」
上機嫌の店長が、前夜祭だとワインを取り出した事から、閉店後の宴会が始まってしまった。
終電を諦めた頃に省吾が居ない事に気付き、隣にいた奴に何気なく聞いてみると、気持ち悪いってトイレいったよと教えられた。
そういやあいつ、酒は強くなさそうだったなと、先日見た赤い顔を思い出す。
「はは、店長ついてったけど、逆に危なくね?」
「え、なんで?」
笑いながら会話に加わった三上の言葉に質問すると、バイト暦の長い梶が驚いた表情で声をあげた。
「ハル、もしかして知らねぇの」
「何が?」
「うち、バイト男ばっかりだろ」
確かに。特に疑問も持たなかったけど。
「店長、男好きだからね。逆に若い女の子の扱いが苦手らしくて、バイトは歴代男のみなんだよ。いい人なんだけど、省吾は間違いなく狙われてるよな」
でもアイツ鈍いし、と数人がカラカラと笑ったが、それらを聞き終える前に俺は席を立ち、足早にトイレへと向かっていた。とんでもない案件じゃないか。酔った省吾なんて、簡単に手篭めにされてもおかしくない。むしろよく今まで無傷で生きてこれたなと、逸る気持ちを抑えながらトイレに入ると、一番奥から店長の声が聞こえてきた。
「弱いくせに飲み過ぎだろう。ほら吐いて」
「……ムリ……」
「吐けないか」
「……う……ムリ……」
扉は空いている。声をかけようかと躊躇った瞬間、消え入る程の、微かな声が聞こえてきた。
「あ……」
店長の声じゃない。
たまらず奥へと駆け寄ると、振り返った店長と目があった。
「あ、ハル」
見られちゃったとはにかむ店長。
グッタリした省吾を背後から抱き抱えるように立ち、両手は省吾のシャツの中へ滑りこませている。
とんでもない大人だ。
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