77 / 428

逢いたかったひと 24

「……店長、こんな所で悪戯は厳禁です」 「悪戯じゃないよ、省吾が辛そうだから」  ニコニコと憎めない表情をされても困る。  俺はため息をつき、とにかく、と省吾の肩に手を置いた。 「こいつ死んでますから、ひと吐きさせて家まで送ります」  ズルイとのたまう店長を追い払い、ヤレヤレと省吾に向き直る。  便器に腕を置き、グッタリとしゃがみ込んだ省吾は既に屍だ。ワインを飲んで、あっという間に足に来たんだろう。 「全く……省吾、吐けるか」 「……ムリ……」  先程と同じ回答。  俺は省吾の腰を持ち上げ、頭を下げさせ身体を固定した後、自分の人差し指と中指を省吾の喉奥へ突っ込んだ。無理矢理吐かせるにはこれが一番手っ取り早い。  予想通り、省吾はガハッと呻き、直ぐにげぇげぇと吐き始めた。 「よし……吐いたら楽になるからな。全部吐け」  背中をさすりながら声をかける。  一度吐かせればあとは勝手に上がってくる。 「……苦し……」 「大丈夫、全部吐けば苦しくなくなる」  子供みたいに素直に頷く省吾の背中を、俺はさすり続けた。  バイト連中が呼んでくれたタクシーに乗り込み、省吾のアパートに着いた頃には夜中の三時を回っていた。  あのあと水を飲ませてさらに吐かせたおかげで、気持ち悪さはなくなったようだが、ろれつも回らず完全に酔っ払いだ。 「省吾、着いたぞ。鍵はどこだ?」 「……ない……」 「ないわけないだろ全く……あった」  上着のポケットを漁り、鍵を取り出す。  省吾を抱えながら部屋に押し入り、敷きっ放しの布団の上に転がした後、俺も畳に転がった。 「……疲れた」  サークル飲みで散々介抱役をしてきた経験が今報われた気分だ。

ともだちにシェアしよう!