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逢いたかったひと 26
◇◇◇◇
十二月二十四日も終わる頃。
バイト先のレストランの手前で足を止め、引き返そうとした時だった。
「お疲れっす」
挨拶とともに正面扉が開き、元気な足取りで表へ出て来た省吾と目が合った。
「あれ、ハル。なんだよ今日は女と泊まりじゃねぇの」
俺の正面で立ち止まり、黒い瞳で俺を見上げる。泊まりじゃないよと笑って返すと、ふぅんと軽く聞き流された。
「それより昨日はほんと、悪かった! 皆から話聞いてさ」
頭を掻きながら笑顔を見せる省吾に少しホッとする。
「朝起きたら部屋で寝てるし、お前のメモ書きあるし、記憶ねーし」
昨日は鍵をかけてドアポストへ落としておくとメモを残し、明け方部屋を出た。
「めちゃめちゃ吐かせてくれたんだって? 店長とトイレいったとこまでは覚えてんだけどさ……そっから記憶ねぇんだよな」
記憶がないという言葉に後ろめたさを感じながらも、俺は笑顔を返す。
「今日は元気そうだな」
「昼間は二日酔いで死んでたけどな。んでお前はなんでここ居んの? 出かけからの通り道じゃねぇだろ」
「省吾が死んでないか、気になってさ」
「マジか? お前ってホントにいい奴だな」
どんだけお人よしなんだよと笑う。
そんなんじゃないのに。
本当は今この場でも、省吾に触れたくて堪らないのに。
「帰るだけなら少し付き合えよ。昨日のお詫びに酒奢る」
「奢らなくていいけど、酒を飲むなら付き合うよ」
ふたり並んで歩き始め、大通りまで出た時、省吾があっと声を出した。
見つめる先に目を向けると、コンビニの前でクリスマスケーキを売っている。
「省吾、ケーキ食べたいのか」
「嫌いじゃない。たまに安くなってたらホール買いする程度」
それはかなり、好きなんじゃないのか。
ケーキは半額で売られていて、省吾は一番小さいサイズをワンホール購入すると、俺を見上げて嬉しそうに笑った。
「半分やるよ」
「はは、丸々ひとりで食べたいんじゃないのか」
「予定変更。外飲みやめて家飲みにしようぜ」
俺の同意を得るまでもなくそれは決定事項とされたらしい。
さっさとコンビニ店内へ入っていく省吾の背中を見つめながら、俺も後に続いた。
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