79 / 428

逢いたかったひと 26

◇◇◇◇  十二月二十四日も終わる頃。   バイト先のレストランの手前で足を止め、引き返そうとした時だった。 「お疲れっす」  挨拶とともに正面扉が開き、元気な足取りで表へ出て来た省吾と目が合った。 「あれ、ハル。なんだよ今日は女と泊まりじゃねぇの」  俺の正面で立ち止まり、黒い瞳で俺を見上げる。泊まりじゃないよと笑って返すと、ふぅんと軽く聞き流された。 「それより昨日はほんと、悪かった! 皆から話聞いてさ」  頭を掻きながら笑顔を見せる省吾に少しホッとする。 「朝起きたら部屋で寝てるし、お前のメモ書きあるし、記憶ねーし」  昨日は鍵をかけてドアポストへ落としておくとメモを残し、明け方部屋を出た。 「めちゃめちゃ吐かせてくれたんだって? 店長とトイレいったとこまでは覚えてんだけどさ……そっから記憶ねぇんだよな」  記憶がないという言葉に後ろめたさを感じながらも、俺は笑顔を返す。 「今日は元気そうだな」 「昼間は二日酔いで死んでたけどな。んでお前はなんでここ居んの? 出かけからの通り道じゃねぇだろ」 「省吾が死んでないか、気になってさ」 「マジか? お前ってホントにいい奴だな」  どんだけお人よしなんだよと笑う。  そんなんじゃないのに。  本当は今この場でも、省吾に触れたくて堪らないのに。 「帰るだけなら少し付き合えよ。昨日のお詫びに酒奢る」 「奢らなくていいけど、酒を飲むなら付き合うよ」  ふたり並んで歩き始め、大通りまで出た時、省吾があっと声を出した。  見つめる先に目を向けると、コンビニの前でクリスマスケーキを売っている。 「省吾、ケーキ食べたいのか」 「嫌いじゃない。たまに安くなってたらホール買いする程度」  それはかなり、好きなんじゃないのか。  ケーキは半額で売られていて、省吾は一番小さいサイズをワンホール購入すると、俺を見上げて嬉しそうに笑った。 「半分やるよ」 「はは、丸々ひとりで食べたいんじゃないのか」 「予定変更。外飲みやめて家飲みにしようぜ」  俺の同意を得るまでもなくそれは決定事項とされたらしい。  さっさとコンビニ店内へ入っていく省吾の背中を見つめながら、俺も後に続いた。

ともだちにシェアしよう!