80 / 428

逢いたかったひと 27

 何度目かの省吾の部屋は相変わらず物がなく、殺風景でシンと冷えた小さな部屋だ。まるで省吾の心の中に足を踏み入れるような感覚に陥る。  省吾はホールケーキを包丁で真っ二つに切ると、俺にフォークを差し出した。 「ありがとう。取り皿がないけど?」 「アホか、ホールケーキはそのまま食うのが美味いんだ」  そういうものなんだろうか。それよりも、ケーキとビールって組み合わせはどうなんだ。  俺の疑問をよそに、省吾はテレビの電源を入れた後時計に目をやると、嬉しそうに俺の名前を呼んだ。 「ハル」 「なに」 「メリークリスマス!」  缶ビールを持ち上げ、乾杯しろと笑う。  俺は少し驚きながらもとりあえず乾杯に合わせ、時計を見た。  0:05  クリスマスだ。 「クリスマス、好きなのか」 「好きってか、地元じゃ大概仲間で集まって宴会してたし。なんか楽しいじゃん」  深く考えたことねぇよと楽しそうに笑う省吾を見つめて、俺はそういうものなのか……と腑に落ちた。 (そうか……)  深く考えず単純に楽しむという行為も、時には必要なのかもしれないと妙に感心する自分は、やっぱり面白くない人間なんだろうなと改めて気付く。 「なに難しい顔してんだよ」  ケーキにフォークを突き刺し、どデカイ一口を口に入れながら、省吾が言った。 「難しい顔?」 「めっちゃシワよってるぞ眉間に」 「ああ……それは俺の癖だな、昔からの」 「ふぅん……ハル、女と喧嘩したのか」 「え?」 「あんま元気ねーな」 「いや、寧ろ今楽しいけど」  俺の回答が可笑しかったのか、ハルはブッと吹き出して笑った。 「それより省吾、昨日吐くほど飲んでおいて、よく今日も飲む気になれるな」 「そういやそうだな」  今気付いたように、缶ビールをしげしげと眺めている。まさかしょっちゅう記憶なくしてるんじゃないだろうな。心配だ。 「昨日はホントに記憶ないのか?」 「あー、気持ち悪くなって、店長にトイレ連れてかれたけど吐けねーとか思ってたら、店長が俺の胸弄りはじめたとこまでは何となく覚えてる」 「……ケロッとした顔でお前」 「あのオッサンがちょっかい出してくんのはしょっちゅうだし、その度蹴り入れてるし、もうギャグみてーなもんだよ」  昨日は流石にグロッキーで、なんてのほほんと抜かしている省吾に腹が立ってきた。

ともだちにシェアしよう!