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逢いたかったひと 27
何度目かの省吾の部屋は相変わらず物がなく、殺風景でシンと冷えた小さな部屋だ。まるで省吾の心の中に足を踏み入れるような感覚に陥る。
省吾はホールケーキを包丁で真っ二つに切ると、俺にフォークを差し出した。
「ありがとう。取り皿がないけど?」
「アホか、ホールケーキはそのまま食うのが美味いんだ」
そういうものなんだろうか。それよりも、ケーキとビールって組み合わせはどうなんだ。
俺の疑問をよそに、省吾はテレビの電源を入れた後時計に目をやると、嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
「ハル」
「なに」
「メリークリスマス!」
缶ビールを持ち上げ、乾杯しろと笑う。
俺は少し驚きながらもとりあえず乾杯に合わせ、時計を見た。
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クリスマスだ。
「クリスマス、好きなのか」
「好きってか、地元じゃ大概仲間で集まって宴会してたし。なんか楽しいじゃん」
深く考えたことねぇよと楽しそうに笑う省吾を見つめて、俺はそういうものなのか……と腑に落ちた。
(そうか……)
深く考えず単純に楽しむという行為も、時には必要なのかもしれないと妙に感心する自分は、やっぱり面白くない人間なんだろうなと改めて気付く。
「なに難しい顔してんだよ」
ケーキにフォークを突き刺し、どデカイ一口を口に入れながら、省吾が言った。
「難しい顔?」
「めっちゃシワよってるぞ眉間に」
「ああ……それは俺の癖だな、昔からの」
「ふぅん……ハル、女と喧嘩したのか」
「え?」
「あんま元気ねーな」
「いや、寧ろ今楽しいけど」
俺の回答が可笑しかったのか、ハルはブッと吹き出して笑った。
「それより省吾、昨日吐くほど飲んでおいて、よく今日も飲む気になれるな」
「そういやそうだな」
今気付いたように、缶ビールをしげしげと眺めている。まさかしょっちゅう記憶なくしてるんじゃないだろうな。心配だ。
「昨日はホントに記憶ないのか?」
「あー、気持ち悪くなって、店長にトイレ連れてかれたけど吐けねーとか思ってたら、店長が俺の胸弄りはじめたとこまでは何となく覚えてる」
「……ケロッとした顔でお前」
「あのオッサンがちょっかい出してくんのはしょっちゅうだし、その度蹴り入れてるし、もうギャグみてーなもんだよ」
昨日は流石にグロッキーで、なんてのほほんと抜かしている省吾に腹が立ってきた。
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