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逢いたかったひと 28

 缶をテーブルに置き、省吾を真っ直ぐに見つめると、省吾も缶を置き、何だよと睨みつけてきた。 「あの時、自分でどんな声だしたかわかってないだろ」 「声?」  苛立ちを抑えられない。誰かが省吾の身体に触れる事を想像しただけで、胸がざわつく。  無意識に近い状態で、俺は省吾の肩を掴み、畳の上に押し倒していた。 「いてっ、なにす……」  暴れる省吾を力で捩じ伏せキスをした。  コタツの中で暴れる省吾の足の振動で、テーブルの上の缶が畳に落ちて転がっていく。頭と上半身を押さえつけて、動けない省吾の唇を塞ぎ、長いキスをした。舌を絡ませれば逃げようとするけれど、俺の舌を噛み千切ろうとはしない。その優しさにつけこんで、俺は省吾の口内を貪り、キスを繰り返した。  やっと唇を離し省吾を見下ろすと、目を真っ赤にして俺を睨みつけていた。 「ふざ、けんな……」 「好きだ」  省吾の目が大きく開かれ、抵抗していた力が一瞬緩む。 「好きだ……」 「は……なに言っ」 「好きだ、好きだ、好きだ」 「ハ……」 「省吾が、好きだ」  再び唇を覆い舌を絡めると、省吾は頭を振って逃れようとしたが俺はそれを許さなかった。力で押さえ付け、口内を激しく犯し続けた。嫌がる省吾の口から唾液がしたたり落ちていく。  こんな事をして、嫌われるのは想像できる。冷静な自分ならばこんな事はありえない。わかっていても、暴走した感情が抑えられなかった。  やがて省吾の腕から力が抜け、抵抗もなくなった頃。  唇を離し大きく息をはくと、俺を見上げる省吾と目があった。 「……帰れ」  真っ赤な目に涙を滲ませながら、俺を睨みつける。 「帰れ」  省吾はそれ以上何も言わず、俺は押さえていた手を解き、身体を離した。 「……ごめん……」  畳に仰向けになったまま動かない省吾に背を向け、部屋を出た。  馬鹿な事をした。  省吾を、傷付けた。  こんな状態でもなお、俺は省吾に触れたかった。  俺は、馬鹿だ。

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