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逢いたかったひと 29

 翌日。  省吾に会ったらまず謝ろうと心で構えながら店に入ると、省吾はいつもと変わらぬ態度で、愛想のない挨拶を投げてよこした。  その後も俺を無視する訳でもなく、気まずい空気を出す訳でもなく、いつも通りの省吾に、謝るタイミングを掴めないまま……バイトを終えた。 「省吾」  店を出て歩きだした後ろ姿を呼び止めると、省吾は足を止め、ゆっくりと振り返った。無言のまま、俺に冷たい視線を向ける。 「昨日は……悪かった」 「……別に」  聞き取れない程の呟きが聞こえ、それから表情を変えずに言葉を続けた。 「全部、どーでもいい」  言葉の出ない俺を一瞥した後、省吾は歩き去っていった。  ぽつんと頬に冷たさを感じて空を見上げると、真っ黒な空から、小さな白い雪がはらりと舞い降りた。ひとつ。ふたつ。みっつ。  小さな雪は広げた手の平の上に降り立ち、静かに消えた。  その夜、初雪は静かにそっと夜の街に舞い降り、積もる事なく消えた。 ◇◇◇  街からクリスマスのイルミネーションが消え、気がつけばあっという間に年の暮れ。  年末最終日のバイトを終え、省吾は実家へ帰って行った。  俺も年末年始は実家へ帰り、地元仲間との久々の再会を楽しみ、新しい年を迎えた。  年が明け大学生活も最終段階に入り、慌しさを理由にバイトの出勤日数を大分減らし、省吾とバイト先で顔を合わせる事は月に数回となっていた。  会えば変わらず普通に接してくれるものの、以前との決定的な違いは言われなくともわかる。  省吾が俺に対して笑顔を見せることは、なくなった。  築きかけていた橋を崩したのは、俺だ。

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