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逢いたかったひと 30

 二月に入り、久々の出勤日。  祝日ということもあり、外は雪だというのに店内は程よく賑わっていた。  その日ホールを担当していたのは、俺と省吾と新人の三人 。  扉が開く音と共にいらっしゃいませと振り返ると、見知った姿が目に入り、ぎょっとした。  サークル仲間の男とその彼女が、笑顔でこちらに手を振っている。 「ハルくんの働く姿を見にきちゃった」  彼女が笑顔で言うと、隣の男はニヤニヤと笑いながら言葉を続けた。 「誕生日にバイトなんてしている可哀相なハルに、おめでとうをいいにきたの俺達」 「煩いバカップル。こちらへどうぞ」  空いている席へ案内をした後、水の入ったグラスを盆に乗せ再びテーブルへ。 「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」  仕事仕様で対応する俺に対して、からかいたくて仕方がないバカップル。 「大学生活最後の誕生日に独りぼっちでアルバイトとはねえ」  と彼女が口を開くと、 「クリスマスの、しかも誕生日だってのに、非の打ち所のないあの人を振った男だぞ。同情する必要ねえよ」  男は鼻で笑いグラスの水を飲む。 「同情なんてしてないわよ。むしろ先輩の気持ち考えたら、地獄行きよハルくんなんて」  と彼女が言葉を続け、最後はふたりで、 「まったくねー」  と顔を見合わせた。  バイト先にまで来て言いたい放題か。周りの客やバイト仲間に聞こえるからやめてほしい。それを承知でわざとやっているって事もよくわかるけれども。  クリスマスイブに俺から彼女に別れを告げた事は、俺が口にしなくてもあっという間に仲間内には知れ渡っていた。  彼女は後輩に慕われていたし、俺は予想通りの非難を受けた。言われても仕方が無い。我ながら酷い人間だと自覚もしている。  オススメを教えろとせっつかれながらオーダーを取り、厨房へメニューを伝え終えてから、はあと大きく溜め息をつく。  知り合いがバイト先に来るなんて、ろくな事がない。  早く休憩に入りたい。その間にあいつらには帰っていただきたい。 「なにブツブツ言ってんだよ。気持ちわりーぞ」  背後からの声に振り返ると、省吾が呆れ顔で立っていた。  どうやら口にでていたようだ。 「突然知り合いがさ……」 「お前、今日誕生日なの?」 「え?」  突然の質問に一瞬面食らったが、先ほどの会話が聞こえていたのかと気付き、そうだよと答えた。 「そっか。おめでと」 「え?」  思わず聞き返した俺に、省吾はあからさまにイラついた表情を見せる。 「聞き返すなよ。誕生日っつーたら、おめでとーだろ」

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