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逢いたかったひと 31
「……ありがとう」
ワンテンポ遅れて礼を言う俺に省吾が何かを言いかけた時、お客様から呼び声がかかり、踵を返してホールへと足早に戻っていった。
省吾、何を言いかけたんだろうか。
(……びっくりしたな)
『誕生日っつーたら、おめでとーだろ』
省吾の言葉を頭の中で繰り返しながら自分もホールへ戻ろうと歩き出した時、厨房から「ハル、飯休憩に入れ」と声をかけられ、ホールに立つ新人に一声かけてから休憩に入った。
賄い飯を盆に乗せ、休憩室のドアを開ける。
誰も居ない事にほっと息をつき、椅子に腰掛けそのまま机に倒れ込み、目を閉じた。
(……誕生日)
子供の頃は、喜んでいた。両親からのプレゼントにケーキ、おめでとうの言葉。プレゼントは毎年書籍で、俺はそれらを何度も読み返した。
素直に喜べなくなってもう何年になるんだろうと、ふと思い返してみる。
おめでとうという言葉は沢山貰ったけど、それは重いものでしかなくなっていた。
両親が不仲になって、自分の存在が邪魔をしていると気付いた時から、誕生日を迎える度に、母親に対して申し訳ない気持ちしか生まれなくなった。
(なのに……)
『おめでと』
省吾の何気ない言葉が俺の中で何度も繰り返され、心に染みていく。
(嬉しいな……)
ぼんやりと考えていたその時、ノックと同時にドアが開いた。
ノックの意味がまるでないなと思いながら振り返ると、盆を持った省吾が入ってきた。
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